役者・モデルとして活躍する山本美月さん。テレビ番組でのナレーションや雑誌での絵の連載をはじめ、2020年には描き下ろしコミックが収録された書籍『魔法少女 山本美月』を発表するなど、表現の幅を広げ続けています。今回、山本さんの「表現」や描くことをはじめたきっかけや、描いた作品を公開することの思いについて伺いました。
話し合いを終わらせるために手を挙げたら
演技の楽しさを知った
ーー山本さんは現在多数の映画やドラマなどで活躍されていますが、演じることに興味を持ったきっかけを教えてください。
初めてお芝居を楽しいと思ったのは小学校6年生の時。小学校の体育館でちょっとしたお菓子とお茶が出る茶話会みたいなものがありました。保護者の前で劇をしなければならなかったんです。配役を決める話し合いが難航してなかなか主役が決まらなくて、話し合いを終わらせるために手を挙げました(笑)。その時はとにかく話し合いを終わらせて、早く帰りたい気持ちが先行していたのですが、実際に初めてお芝居をしたら楽しいものだと気づいて、中学校に入ったら演劇部に入ろう、と決めました。でも残念ながら私の入学した中学校には演劇部がなかったので美術部に入って、高校で演劇部に入ったんです。
ーー中学校では演劇部がなかったんですね。そこから3年間、「高校に入ったら演劇部に入ろう」と決めていらっしゃったのですか?
はい。高校では絶対に演劇部に入りたかったんですが、友達が誰も一緒に入ってくれなかったので、一人で演劇部に入りました。同じ学年で入部した子がもう一人いたんですけど、顔見知りではなかったので、入部した時は本当に一人でした。でも先輩たちはとても優しくしてくれました。
ーーその時点でかなり演じることへの熱量が高かったんですね。
入部して最初の文化祭の舞台で主役を演じことになったのですが、セリフを飛ばしてすごく大変だった思い出もあります。でもそういう失敗も含めて演技に抱いた楽しさはずっと続いています。
ーー高校時代の演劇部での経験や思い出が、今に生きていると感じることはありますか?
演劇部での経験が生きているか、と聞かれたらそうでもないような気もするのですが、やはりお芝居を楽しいと感じる気持ちは同じだと思います。舞台に立つときに怖さを感じることは少ないかもしれないですね。
表現の幅が広がっても
平常心を大切に
ーー最近は役者としての仕事を超えて絵や声のお仕事など、幅広い分野で活躍されていますが、表現の幅が広がったことでご自身の考え方や仕事との向き合い方などにも変化はありますか?
今ちょうど雑誌で絵を描く連載を持っているのですが、自分から積極的に提案して描くことができています。以前は少し受け身なところもありましたが、ここ数年は少しずつ変わってきた気がします。
ーー役者のお仕事とイラストを描くお仕事でそれぞれ表現の方法は異なると思うのですが、気持ちの切り替えや意識していることはありますか?
そんなに意識していることはないかな。いろいろ考えると緊張してしまうし、普段通り、平常心で向き合っています。
ーー2020年には、描き下ろしコミックが収録された書籍『魔法少女 山本美月』も発売されましたが、絵を描きはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?
インドアだったんです、昔から。みんなが外で走り回っていても私は部屋で絵を描いていました。母が美術教師の資格を持っていて、家でお絵かき教室をやっていたんです。絵を描くことがずっと身近にあって、工作の宿題とかも親の方が気合が入ってました(笑)。その影響で、図工や美術は(誰にも)負けたくない気持ちが強くありました。
小学生の時にポスターコンクールで入賞して、全校集会で名前を呼ばれて表彰されるでしょ 。それがすごく嬉しくて、そんな成功体験が好きにつながっているのかなと思います。自分の描いたものをたくさんの人に見てもらえたり、褒めてもらえたりすることが嬉しかったんだろうな。
ーーSNSでは、コミックチックなキャラクターから緻密なお花のイラストまで、様々な作品を投稿されていますが、どんなイラストを描くのがお好きですか。
漫画っぽいものが描きたい時もあれば、リアルなものを描くのも好きだし、あまり定まっていません。気分によって、描きたい時に描きたいものを描いています。統一感を持たせたいとは常々思っているのですが、なかなか難しい(笑)。
ーー気分に合わせてテーマを決められているのですね。実際に描くタイミングや時間などはどうでしょうか。
寝る前に “ながら” で描くことが多いです。ホラー映像を見ながら描くこともあります。
ーー怖い映像を見ている時は、やっぱり怖いイラストを描くのでしょうか……。
まったく関係のないポップな絵を描いています(笑)。細かいものを描こうとすると、とにかく描き進めなければならないので面倒になることがあるんです。でも何か観ながらだと無心でいられるので自然とそうなっていました。
ーーいつの間にか出来上がっている感じなのかもしれないですね。絵を描いているときに「楽しい」と感じる瞬間はありますか?
形(完成形)が見えてきた時です。最初は楽しくないんですよね、実は。描けないかもしれない不安とか「私は何を描こうとしているんだろうか」とモヤモヤとした気持ちがあって。でも描き進めていくうちに形になってくると「間違ってなかったんだ」と思えて安心します。
「私って何が好きなんだろう」
自問自答が手を動かす原動力に
ーー先ほど描きたいものは気分で決めるというお話がありましたが、テーマを明確に決めてから描き始めるのか、それともなんとなくこんなものを描こうかな、くらいで手を動かすのでしょうか。
どっちのパターンもあります。ただ、決めてから描き始める時は、比較的早く描けるのですが、定まっていない時はやはり時間がかかります。タブレットを使うときは描いては消してを繰り返してしまうことが多いです。描いてみたけれど「なんか違う」と思ったらイチから描き直すこともあります。
ーー描き始めてみて気乗りしない時はやめることもあるのでしょうか。
次の日になるとまた気分が変わっていることがあるので、描きはじめたらなるべくその日に描き終わりたい気持ちの方が強いですね。
うまく描けたと思っても、次の日見て「ちょっと違うな」と思うことも結構あります。当日は描き終えたことに満足してあまり客観視できないので、冷静になってから改めて自分の絵を見たいです。すぐSNSにあげちゃダメだなと。投稿してない絵が溜まってます(笑)。
ー ー気持ちを大切にする以外で、絵を描く上でのこだわりはありますか?
何も大切にしてないわけではありませんが、とにかくその時の気分に任せているのでルールは特に決めてないです。
ーーだからこそ楽しく自然体で描くことに向き合えているのかもしれませんね。描きたいもののイメージは、どんなものを参考にしたり、インスピレーションを得たりしていますか?
「私って何が好きなんだろう」これはいつも考えていることで、今はそれを探している途中です。好きなもの・描きたいものは昔から徐々に変わっています。美術部だった中学生の頃はお城など建物が好きで描いていましたが、今は生き物を描いている方が楽しくて、鳥や動物、人間、最近は植物を描くことが多い気がします。
昔は空の色も好きで、空を見て「この色を描きたいから配色を覚えておこう」って次の絵に活かすこともありました。
ーー身の回りにあるもの、近いものを描くことが多いんですね。
そうですね。でも見たものを後から思い出して描くのは結構難しくて、植物はどうしても大学で学んでいたこともあって、間違えた生態を描きたくない気持ちが強くなってしまうんです。虫も好きなんですけど、ないものを描きたくない。例えば触角の数や花のがくの位置、葉っぱの生え方がきちんと描けているか、かなり気になってしまいます。
植物って本当に全部違うんですよ。なのでここのところは家にある植物を見て描くことが多いかもしれません。きちんと時間をかけて見ながら描く。面倒くさいことしているな、と自分でも思うんですけど。別にどうだっていいじゃないですか、架空の植物だって言い張ればいいのに(笑)。
ーー植物や生物など、今まで学んでこられたものを描く時はきちんと描きたい思いが強いんですね。普段は、どんな画材で作品を描いていますか?
普段は、デジタル(タブレット)が多いです。高校生までは水彩絵の具やアクリル絵の具、油絵など手描きで描いていました。
なんでもない日を充実した1日にする魔法
ーー手描きの良さはどのようなところにあると思いますか?
予想ができないものが生まれたりすることと、戻れないことに良さを感じます。それから紙に描く感触も。デジタルとは違って何に描くかでいろいろ変わってくるので、逆に難しい点でもあるのですが。
ーーどんな時に手描きをするのでしょうか。
額に入れる絵を描きたい、形に残したいと思う時です。かわいい額があると、入れる絵を描きたくなるんですよね。
ーー山本さんにとっての「FUN ART(=アートを楽しむこと)」とはなんでしょうか。絵を描くことが山本さんにとって、どんな位置づけになっているのか気になります。
「唯一の特技」でしょうか。絵だけはずっと描いています。描かない時期もあったけれど結局描き続けているから、好きなんだろうなって。今後も絵を描くことは楽しく続けていきたいです。
「得意です」ってなかなか言えないじゃないですか。役者の肩書きはありますが、「演技が得意です」と人には言えません。でも絵は得意ですって言える。
ーー気持ちが落ち込んでいるときに絵を描いて元気になる、ということはありますか?
何も無い日でも、絵を一枚描けたら充実した日だと思えます。今日は一日頑張ったな、と。
ーー最後に、日頃からアートを楽しんでいる読者に向けてメッセージをお願いします。
わたしの役者としての作品や、人間的な部分ももちろん見ていただきたいですが、今後は絵などの作品もどんどん公開していきたいと思っているので、注目していただけたら嬉しいです 。みなさんも創作活動を楽しんでください。
Profile
山本美月
1991年7月18日生まれ。福岡県福岡市出身。
2009年に雑誌『CanCam』の専属モデルとなり、モデルデビュー。2011年から女優業を開始、翌年映画『桐島、部活やめるってよ』で注目を集め、その後様々なドラマ・映画に出演。趣味は絵を描くことで、公式Instagramにアップするイラストはたびたび話題に。雑誌「SPRiNG」でも連載を持っている。
文/松原 貴子
撮影/河澄大吉
衣装提供/Tシャツ.ワンピース @coxco_official ピアス @jouete official