2024.1.5
【FUNART JOURNEY】リトアニア、カウナスの見どころアートスポット(後編)
旅する感覚でアートを楽しむ“FUNART JOURNEY”
海外の日常にあるアートの楽しみ方などを現地からのレポートでお届けします。
今回はチェコ在住の彫刻家・TETS OHNARI氏が代表のアートサバイブログがリトアニアから「リトアニア、カウナスの見どころアートスポット」をレポート。
Have a fun art journey !
目次:
-社会情勢とアート ~ウクライナとロシア~:
-社会情勢とアート ~ユダヤ人と杉原千畝の「命のビザ」~:
-建築:
-フルクサス(Fluxus):
-現代ストリートアート 21世紀:
-欧州文化首都 2022:
-第14回カウナスビエンナーレ 2023:
-まとめ:
今回は北ヨーロッパに位置するバルト三国の一つ、リトアニア共和国の第二都市、カウナス(Kaunas)のアートの魅力を紹介するアートジャーニーに出かけたいと思います。
「リトアニア、カウナスの見どころアートスポット」の前編では時間を遡りリトアニアの先人の作品を紹介してきました。後編はリトアニアアートの「今」をお伝えできればと思います。
前後編の2部構成になっていますので、もしまだ前編を読まれていない方はこちら前編をご覧ください。
それでは後編を始めていきましょう。
-社会情勢とアート ~ウクライナとロシア~:
まずは、カウナスを歩いて多く目にするのは街全体が「ウクライナ支援、戦争反対」のメッセージです。それもそのはず、リトアニアは、ロシアとベラルーシに隣接しています。 1990年以前のソ連時代には、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国もソ連の構成国だったことから、リトアニア西部には「カリーニングラード」という、ロシアの飛び地国がある程です。リトアニアは、ウクライナの次は自分達が被害者に、、という恐怖もあり、国一丸となって戦争反対と民主主義を訴えているのです。写真左にある、国立チュルニョーニス美術館では「ウクライナに栄光を」を意味する”Slava Ukraini”と題した展示が行われています。
また街の至る所で国旗が掲げられていたり、ウクライナ関係の支援や企画展など、芸術展示や政治活動が自然と混同しています。
教会の中でも支援物資や支援金を募る用意がされてたりします。
-社会情勢とアート ~ユダヤ人と杉原千畝の「命のビザ」~:
カウナスを知るにあたり、リトアニアで最も重要な日本人「杉原千畝」(すぎはら ちうね)を語らなければいけません。杉原千畝は、1939年から1940年9月5日まで、リトアニア共和国の在カウナス日本領事館領事代理となり、カナウスで生活をしていました。そして、着任直後の9月にドイツがポーランド西部に侵攻し、第二次世界大戦が始まりました。1940年、ナチス政権のドイツ占領下のポーランドから、リトアニアに逃亡してきた多くのユダヤ系難民が、各国の領事館・大使館からビザを取得しようしました。当時リトアニアはソ連軍に占領されており、ソ連が各国に在リトアニア領事館・大使館の閉鎖を求めたため、ユダヤ難民たちは、まだ業務を続けていた日本領事館に名目上の行き先への通過ビザを求めて殺到したのです。そこで杉原は、苦悩の末、本省の訓命に反し、「人道上、どうしても拒否できない」という理由で、領事の権限で受給要件を満たしていない者に対しても独断で通過査証(ビザ)を発給しました。これにより杉原は道徳なことをした命の恩人として今でも語り継がれる人となりました。
杉原千畝のこの行動は功績とされ、現在はリトアニア人は親日家も多く、また文化イベントなどでは日本をテーマにした企画が行われることも頻繁にあります。
現在、カウナスには杉原記念館として、彼の業績を中心とし、その他文化イベントが開催されています。
-建築:
ここでカウナスの街で見られる建物に目を向けてみましょう。リトアニアの首都ヴィリニュスとリトアニア東部がポーランド軍に占領された後、カウナスは暫定首都となり、様々な建物が建設されました。東欧や北欧など、元共産圏内の国々で典型的に見られる建築様式は箱型の構成的要素、機能的要素が強く簡素な建築が多いと言っていいでしょう。社会的主義思想での皆が平等であるが故に、均等の大きさの部屋が沢山あるというのも特徴です。
また滑らかな曲線が特徴的な、「戦間期の建築」(INTERWAR ARCHITECTURE)は、リトアニア建築の中でも重要な建築様式です。 絶妙な国民的文化と国際的なモダニティのスタイルがトレンドとなりました。公共彫刻では、キュビズム的に、面で形を捉える20世紀中盤の彫刻様式を多く見ました。
カウナスで重要なリトアニア正教会の教会、キリスト復活教会(CHRIST’S RESURRECTIONCHURCH)は、中は簡素で品がよく、外観は高層ビルのような壮大さで、このような建築様式をスターリン建築と言います。ここはカウナス内で最も高い場所に位置していて、屋上へ数百円払うと「十字架の道」(Way of the Cross)と呼ばれる屋上に行けます。
-フルクサス- Fluxus:
カウナスの舞台系、音楽、パフォーマンス系の領域では、現在もキーワードとして挙げられるフルクサスがあります。フルクサスとは、1960年代から1970年代にかけて発生した前衛芸術運動です。リトアニア出身のデザイナー、建築家 ジョージ・マチューナスが提唱しました。前衛芸術の歴史の中ではとても大事な一つであり、コンセプチュアル アートの始まり、日本の現代アートも、この時代から始まったといえるのではないでしょうか。
コンセプト的イベントが特徴のパフォーマンスアートで、ヨーゼフ・ボイス、オノヨーコなどが知られています。「芸術が特権階級のものではなく、開かれた問題である。日常生活の普通の行動に注視し、スコア(楽譜、総譜)さえあれば誰でも再現可能である」というのがマニフェストになっています。この認識により、「誰でもが日常生活をよりアートにできる」、ということをモットーになっていて、既成概念を愉快に破壊と再生、再構築するという、時代で錆びないコンセプトであると私は思います。このアート運動に誇りを持つとカウナス市は、2021年にカウナス空港を「フルクサス空港」と名前変更したり、2022年の欧州文化首都では、フルクサスフェスティバル(Fluxusfestival)がイベントを盛り上げていました。
-現代ストリートアート 21世紀:
ストリートアートというと、イリーガルなスプレーの落書き、、とイメージしがちですが、カウナスでは合法的にアートプロジェクトやオーナーのコミッションワークとしてのストリートアートが多く見られます。旧共産圏では、1989年の革命まで、街を自由にユニークに彩る、ということができない時代でした。規制からの自由を渇望する反動は、いつでも誰もが楽しめるアートとして、カウナスを盛り上げる一要素として取り入れられています。
上の写真はYARD GALLERY、文字通り「中庭」自体をギャラリーにした場所です。
-欧州文化首都 2022:
カウナスは2022年に欧州文化首都 -European Capital of Culture (ECoC) に選ばれました。これは、欧州連合 (EU) が指定した都市で、毎年二箇所ほどの街が選ばれ、一年間にわたり集中的に各種の文化行事を数十億円の予算で展開する事業です。指定年の前後数年、街は文化的賑わいと発展のために、沢山の人がこの町興し事業に関わります。ローカルと国際的なアーティストを招き、現代アート、写真、コンテンポラリー ダンス、建築、クラシック音楽、パフォーマンス アートなど、沢山のプロジェクトやフェスティバルが組まれています。
去年のことなので、今回は残念ながら私は何も公演などは見れませんでしたが、2022年以降にできたインフォメーションセンターの方に、色々と成功話を聞かせてもらいました。
-第14回カウナスビエンナーレ 2023:
カウナスでは2年に一回、アートビエンナーレが開催される。第14回カウナスビエンナーレ
(14th Kaunas Biennial: Long-distance Friendships)
では、ラトビアの首都リガ、スロベニアの首都リブリャナと連携し3つの都市で各アートフェスティバルを同時長期開催しています。カウナスビエンナーレでは、アフリカと東欧の友好関係と現代的な同盟への出会い、というテーマで行われました。
“欧米”の現代アートの文脈だけではない、正に独自のコンテンポラリーのアートがここにあるように感じました。全体的にはコンセプチャルで、ドキュメント中心のリサーチ系インスタレーションです。展示テーマの文脈を読み取ってこそ楽しめる作品群だなと思いました。
-まとめ:
ここまでカウナスのアートの時間的な縦軸、グローバルな横軸で見てきました。
初めて訪れる場所は特に、街や人から様々なインスピレーションを受けることがあるでしょう。このような刺激は、決してオンラインでは体験できない、素晴らしい経験や感覚を与えてくれます。日本人にとっては、リトアニアのような遠い外国は僻地かもしれませんが、ここにも、どこにでも、人々の幸せやアートが沢山あります。今回の記事が皆さんに少しでも興味を与え、クリエイティブなマインドでアートジャーニーに出かけてくれると幸いです。
それではまた/
写真・文/TETS OHNARI(アートサバイブログ)
チェコ共和国首都プラハ在住。彫刻家のTETS OHNARIを代表とするメンバーで。アーティストハウツーや東ヨーロッパの芸術文化情報などを発信中。
https://artsurviveblog.com/