2023.12.28
【FUNART JOURNEY】リトアニア、カウナスの見どころアートスポット(前編)
旅する感覚でアートを楽しむ“FUNART JOURNEY”
海外の日常にあるアートの楽しみ方などを現地からのレポートでお届けします。
今回はチェコ在住の彫刻家・TETS OHNARI氏が代表のアートサバイブログがリトアニアから「リトアニア、カウナスの見どころアートスポット」をレポート。
Have a fun art journey !
目次:
-はじめに:
-リトアニア:
-カウナス:
-アートの歴史 :
-リトアニアアートの誕生 14~18世紀:
-民藝 18~20世紀:
-自然と共生:
-はじめに:
今日は北ヨーロッパに位置するバルト三国の一つ、リトアニア共和国のアートの魅力を紹介します。
今回はリトアニアの第二都市カウナス(Kaunas)で行われている、博物館、野外アート、企画展示、美術館などの「見どころアートスポット」を紹介しながら、リトアニアとアートの歴史を辿っていきたいと思います。
西ヨーロッパのアート情報に比べ、リトアニアなどの東欧や北欧などのアート系イベント、ましてや芸術の歴史などが日本で紹介されることはまだまだ少ない現状があります。正直、日本人にとっては距離的にも遠い国であり、決してメジャーではない国、、と言っても過言ではありません。
今回、私はリトアニアにはじめて行き、地域土着の美しい文化や歴史を垣間見れる展示を見てきましたので、その一部を共有できればと思います。
前編は、かなり簡単にではありますが、リトアニアの数百年前から現代までのアート歴史を辿りながら、ざっくりと概要を掴んで、時空を越えたアートジャーニーに出かけたいと思います。
-リトアニア:
北ヨーロッパに位置する”バルト三国” の一つ、リトアニア共和国。人口は280万人程ですが、日本の約3分の1程の大きな面積を持ってます。自然が豊かな農業国としても有名です。首都のヴィルニスや第二都市のカウナスなどの都心は、国際的なテクノロジーと文化都市としても知られています。
西ヨーロッパが十分成熟した現在、新たなポテンシャルのある新興国の一つとして注目されています。
-カウナス:
第二都市のカウナス(Kaunas)は、旧ソビエト連邦併合以前のリトアニアの首都だった時代があり、現在は都市と自然が共存する豊かな街です。観光客や移民が多い首都ヴィルニスに比べ、よりリトアニアらしい趣がある場所と言えます。他の国々でも当てはまるかもしれませんが、第二都市は第一都市よりもある意味勢いがあり、元気な街が多いと私は思っています。カウナスもそのエネルギッシュな雰囲気、文化的側面と自国アイデンティティーを全面的に押し出し、街を盛り上げようとしている感じがありました。
-アートの歴史:
さて、それでは本題の、リトアニアのアートの魅力や歴史を簡単に解説していきましょう。
カウナスで観た、アート展示、美術館、アートプロジェクトなど、展示内容を紹介しながら、実例と照らし合わせてリトアニア芸術の歴史と今を辿っていこうと思います。
国立チュルニョーニス美術館(M.K. Čiurlionis Museum of Art)
画家で作曲家のミカロユス・チュルリョーニス(1875年 – 1911年)に因んで名付けられた美術館兼博物館は、12000点の数のコレクションを誇り、リトアニアの民俗芸術作品から現代アート作品まで見せてくれます。カウナス唯一の国立美術館から、リトアニアの歴史的所蔵品を見ていきましょう。
-リトアニアアートの誕生 14~18世紀:
リトアニア美術や装飾芸術は14世紀ごろから始まったとされています。
この展示では皿やタイル、金貨やジュエリーなど、カウナスで発見された出土品の数々が展示されています。
中世の富裕層の宝物から一般市民の道具など、600 年間にわたるリトアニア芸術と文化の発展と傾向が見られます。既に、日本ではなかなか見られない配色と装飾のセンスを感じます。
土着的でありながら装飾的な生活用品と、貴族の豪華なのガラス製品、アイデンティティーを形成する判子などユニークな芸術作品が並んでいます。欧州の中世の時代に見られるキリスト教と貴族と権力の影響が見てとれます。
肖像画は、16 世紀にポーランド・リトアニア連邦で人気になりました。有力者の邸宅を飾るためになど、 外交上の贈り物として贈られることが多くありました。教会は高位の人物を描いた作品を収集し始め、修道院では上司や後援者の肖像画が展示されました。
印象深かったのは、世界の終末感が広まった中世末期に「死を想え」を意味し、人生の虚しさを思い出させる絵画「メメント・モリ」(memento mori)が対照的に展示されていたことです。
貴族や宗教が持つ権力に対しての皮肉や提言が、生と死という対照性をより克明に表現されるのだと思いました。
-民藝 18~20世紀:
リトアニアを含めたバルト三国のエリアを“バルティック”地域”と言います。この地域の伝統バルティック民藝の一つフォークアートはとてもユニークです。300年前程前の木製の家財道具を見てみましょう。造られた技術と装飾のディテールがそのレベルの高さを表しています。
次に、リトアニアの伝統工芸としても有名な、刺繍です。
ファブリック自体を各村単位で作り出していた様な時代です。布の質の良さ、縫い方やデザインの創造性と技術、配色、そして愛が込められた品々は、現代にも影響を与え続けています。これらの道具や着物などは、宗教や儀式などの催事とも関わりがあります。
リトアニアの木工芸や刺繍は、現代の民藝や産業、アーティスト達にも影響を与えており街の観光名所などでお土産としても販売されています。
近代都市産業の影響を受けていない生活用品、装飾要素はあるものの形、技術、創造的な努力の複雑さに驚かされる用品が沢山あります。 先史時代の素朴さを保っていて、今日、私たちが頻繁に見聞きするサスティナブルでナチュラルな原点回帰を求める趣向は、リトアニアの独創的な工芸品からもインスピレーションを受けることができると思います。
-自然と共生:
M. K. チュルリオニス国立美術館で2023年の年末まで行われていた展示「GREEN」です。
リトアニア人にとって「緑」は非常に重要で、詩や歌で賞賛し、ことわざやなぞなぞにも使われます。リトアニア語には、「緑の目、緑のひげ、緑の森、緑のスカーフ」など、「緑」を語源とする単語が 146 個もあるそうです。
リトアニア語で、 “緑の森”を意味する「ジャルギリス」(Žalgiris) (*リトアニアはバスケットボールが有名で、カウナスを本拠地とするクラブの名前もジャルギリスと言います。)、をキーワードに、この展示ではリトアニアが長く受け継ぎ誇りを持っている理想(ideal)を自然と緑をモチーフにして、アーティストが切り取った多様なバリエーションイメージを展示しています。
展示内の「科学の回廊」には、博物学者、科学者、現代アーティストによる研究が集められています。 訪問者は、なぜ植物が細胞から成長するのか、幼虫がどのようにして葉の上の歩くのか、どの鉱物が顔料や釉薬の製造に適しているのか、「苔が生い茂る」とはどういう意味なのか、など視覚的情報をメインにしてその謎を知ることができます。
18 世紀後半には、建築学科と美術学科がビリニュス大学に初めて設立され、後ににビリニュス美術学校となり、西ヨーロッパとロシアの影響と共に近代アートが成熟していきました。
写真右のRoman Szwoynicki (1845~1915) の観覧車の絵画は、19世紀の典型的なナラティブ系コンポジションを重視した絵画です。ポーランド・リトアニア共和国時代の政治的意味合いを崇高に解釈する、という新ロマン主義の作家として知られています。
リトアニア美術の様式的発展は、19 世紀半ばから後半にかけて多様化しながらも、600年以上に及ぶ民芸と土着の美術は、リトアニアの民族の成立と発展に寄与していきました。
しかし、1863 年のクリミア戦争による蜂起後のビリニュス大学の閉鎖により、多くの芸術を志す学生やアーティスト達は現ロシアのサンクトペテルブルク、モスクワ、または西ヨーロッパ諸国に行ってしまいます。
それでは次の後編では、カウナスで行われている常設展や企画展などのアートジャーニーに出かけましょう。
写真・文/TETS OHNARI(アートサバイブログ)
チェコ共和国首都プラハ在住。彫刻家のTETS OHNARIを代表とするメンバーで。アーティストハウツーや東ヨーロッパの芸術文化情報などを発信中。
https://artsurviveblog.com/