2020.2.28
【FUN ART LOVERS】 Vol.6 田中 達也
質にも、量にも、こだわり続けていたら
楽しんでくれる人が世界中にできました。
ブロッコリーの森で佇む家族や、パンの電車に乗り込む人々…。身近な素材が不思議な異次元空間に変わる、驚きに満ちた作品を生み出し続ける、ミニチュア写真家の田中達也さん。2011年から1日1作品をSNSに発表し続け、いまやインスタグラムのフォロワーは230万人を突破。世界中が注目する「見立てアート」の世界と、クリエイティブへのこだわりに迫ります。
――今回は、トンボ鉛筆を使ってすばらしい作品を作ってくださいました。目の前で制作過程を拝見しましたが、鉛筆の先がたけのこに見えた瞬間は「あっ!」と声が出ました。
田中達也さん「トンボ鉛筆といえば、渋い緑色ですよね。鉛筆を見た瞬間、これは竹でしょう!と思ったけれど、今回はさらに掘り下げて、たけのこを加えてみました。鉛筆を余すところなく使ったらどうなるかという実験で、削りカスも竹林の土に使っています」
――もう鉛筆がいない…。たけのこ林にしか見えなくなりました!
田中達也さん「僕の作品の核は ”アレがコレに見えるなんて!” という見立ての面白さにあると思っています。一度視点が変わったら、もうそれにしか見えない。そんな不思議な体験を楽しんでほしいんです。ファスナーが畑になるのか!とか、ステープラーの針がビルになるのか!という驚きを感じてもらうために、誰もが知っているものしか題材にしません」
――ミニチュアを撮り始めたきっかけは何だったのですか?
田中達也さん「僕は2015年に独立するまで、広告制作会社のアートディレクターとして働いていました。カメラマンに写真の構図などを指示する立場だったこともあり、勉強も兼ねて自分でも写真を撮り始めました。
被写体として人物の撮影をするには、仕事の帰りが遅くなることも多かったためモデルを雇うことも難しい。そこで、趣味で集めていたジオラマ用の人形を使い、撮影をするようになりました」
――モデルの代わりとしてのミニチュアが、いまの大ブレイクに…。「見立て」という世界の面白さに気づいたきっかけは、何だったのですか?
田中達也さん「ミニチュアを撮りはじめた当初は、特に見立てということを意識して写真を撮っていませんでした。ある日、夕食でお皿の上に余っていたブロッコリーが木に見えて、そこに人形を添えて写真を撮ったところ、普段の投稿よりいいねを多く集めたんです。
――ミニチュア写真家・見立て作家、田中達也さん誕生の瞬間ですね。
田中達也さん「毎日作品を投稿し、傾向を分析してみると、見立ての作風が求められているんだなと」
コンスタントに出し続けた先に
とびきりのアイディアが待っている
――今日もまたインスタに作品がアップされていました。毎日毎日クオリティの高い作品を生み出し続けていますが、作品はいつ作っているのですか?
田中達也さん「ほとんどの作品は前日に制作しています。朝、子どもを幼稚園に送り出してから、2~3時間で制作と写真の色味の処理をして、タイトルにちょっと悩んで(笑)、翌日にアップするのがルーティン化しています」
――毎日制作!2011年からですよね。気力も体力も、よく続きますね!
田中達也さん「展覧会などでどうしても数日間アトリエを離れなければならないときは、いくつか作品を撮りためています。でも、ほんの1日、2日ブランクがあくだけで、なんとなく感覚が鈍ってしまうんです。それが気持ち悪くて、毎日作り続けています」
――造形界のアスリートですね。
田中達也さん「確かに、筋トレみたいな感じかもしれませんね(笑)」
――ネタも、よく続きますね。尊敬しかありません。
田中達也さん「これもアスリートと同じ感覚かもしれないです。記録を伸ばすのと一緒で、コンスタントに、詰め込み過ぎず、適度な量をコツコツ作り続ける。毎日作品をつくるからこそ、アイディアが枯渇せずに出てきます。初見のアイディアって、だいたい誰かが思いつくようなもの多いんです。しかしそれらを全部使いきって “もうない” となった後に出てくるアイディアが、意外とすごい切れ味だったりします」
――どんなときにアイディアが思いつくのですか?
田中達也さん「100円ショップやコンビニ、スーパーなどをぶらぶら歩くとヒントがもらえます。あとは、ネットショップ。以前に購入した品物の関連商品が表示されますよね。ネットショップの膨大な商品量は、いろいろな発見があり、ヒントになります。作品の幅を広げることに役立っています」
――思いついたアイディアはどのようにしているのですか?
田中達也さん「アイディアは思いついたときに、スマホにちょこちょこメモしていて、いま600くらいのストックがあります。作品として形にできるのは、そのうちの3分の1くらいですかね」
――それでも200のストックがあるわけですね。それは安心!
田中達也さん「数があることは、苦しくなってもきっと何か出てくるだろうという自信につながります。メモって、いいんですよ。思いついたときは ”いいアイディアだ!” と盛り上がっても、メモに書いていちど熱を冷ましてから振り返ってみると、意外に作品にならないな~ということもあります。僕の作品は、あくまでも、誰が見ても分かるものでないといけない。だから、客観性はとても大事にしています」
――自分の作品を客観視するのは難しそうですね。”これ、伝わるかな?“ と不安になることもあるのですか?
田中達也さん「けっこうあります。そんなときは、5歳の息子の出番です(笑)。息子は幼稚園から帰ってくると、だいたい僕の仕事部屋に作品を見に来るんです。不安なときは息子に見せてみて、彼にも伝わったら、ほぼ皆さんに伝わりますね」
――子どもは見立てのプロですしね。
田中達也さん「まさしくそうですね。畳の縁(へり)を川にしたり、道路にしたり、トイレットペーパーを積んでビルにしたり、怪獣になってそれを壊してみたり。僕も子どものころ、ヘリコプターのおもちゃを持ち歩いては、野菜売り場の ”山” に、着陸させていました」
観察して、解釈して、伝えて、楽しむ。
描くことを超えた先に、アートがある。
――田中さんのクリエイティブの原点は、どこにあるのでしょうか。
田中達也さん「子どものころから好きなガンプラ(ガンダムのプラモデル)に、Nゲージ(1/160スケールの鉄道模型)のジオラマ人形を一緒に置いてみたら、すごく大きくかっこよく見えて。そこからミニチュアにはまりました。スケール感を出すためにはミニチュアが最適なんです」
――なるほど、スケール感を出す! 田中さんの作品は、リアルではありえない世界なのに、不思議な現実味や説得力があります。リアリティを追求するルーツは、どこから?
田中達也さん「学生時代は、細密画に凝った時期もありました。あらゆるものを観察して、ぎっしり描き込んで機械の解剖図のようなものを描いてみたりしました。描くのは楽しいです。でも、デザインの仕事をしてみて思ったのは、絵を描くことがデザインなのではないということ。何をどう見て、どう捉えて、どう伝えるかが大事ですね」
――これからやっていきたいことは、何ですか?
田中達也さん「やっぱり、展覧会をどんどんやっていきたいです。僕の作品は写真があって初めて成立するもの。ミニチュアの実物を見ても最初はピンとこないけど、写真を見た瞬間に、実物のほうがもうそれにしか見えなくなる。そういう体験の楽しさが、展覧会にはあると思います」
――こんな展覧会をやってみたいという夢はありますか?
田中達也さん「レアンドロ・エルリッヒというアルゼンチン出身の現代アーティストが好きで展覧会を見に行ったことがあります。金沢21世紀美術館にある作品【スイミング・プール】が有名ですよね。あんな風に、全身で体感しながら楽しめる大がかりな展示ができたらいいな…と。アートはやっぱり、楽しいものがいいですよね」
――このサイトのコンセプトである “FUN ART” にも通じるものがありますね!
田中達也さん「FUN ARTっていい言葉ですよね。僕の作品も、日常をもっと楽しもうというメッセージを持っています。ちょっとした想像力で、日常は楽しくなる。ものをよく観察すると面白い発見があったり、ちょっとした発想の転換で家事や仕事も楽しくなる。日常にあるものをよく見て、想像力を働かせて、一緒に ”FUN ART” していきましょう」
Profile
田中達也(たなかたつや)
ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネットで発表し続けている。国内外で開催中の展覧会「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」の来場者数が累計100万人を突破(2019年11月現在)。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、日本橋高島屋S.Cオープニングムービーなど。Instagramのフォロワーは240万人を超える(2020年1月現在)。著書に「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」、「Small Wonders」、「MINIATURE TRIP IN JAPAN」など。
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