2019.11.30
【FUN ART LOVERS】Vol.3 たなか みさき
ただ、自分を楽しませるために。 カッコつけず日常をアートする。
ありふれた日常の、ふとした心の揺らめきを、哀愁香る艶っぽい曲線で描くイラストレーターのたなかみさきさん。今にも物語が始まりそうな、詩的な言葉が添えられたワンシーンは、心に秘めた甘酸っぱい記憶を優しく想い起こさせてくれます。思わず引き込まれてしまう印象的なイラストは、日々どのようにして生み出されているのでしょうか。たなかみさきさんの『FUN ART』の舞台裏を覗かせていただきました。
ーー今回はなんと、ご自宅初公開ということで。
たなかさん「そうなんです。普段インスタにアップしている絵には、この部屋にある身近なものも登場させているんですよ」
ーー 日々の生活から作品が生まれているんですね。
たなかさん「誰でも持っているようなものをモチーフに、特徴よりは質感を細かく描いています。ニットの服だったら、細かく編み目を描き込んでみたりして。匂いや肌触り、時代を感じてもらいたいなと」
ーーまさにその、ほどよい生活感が、たなかさんのイラストの魅力ですよね。お住まいは、確かここ(東京)だけではなく……?
たなかさん「はい。熊本にも仕事場があります。東京と熊本、半々くらいかな。そのバランスが、自分には心地良くて。『東京在住の……』みたいに、カテゴライズというか、自分を固定化するのが苦手なんですよね」
ーーお仕事以外でも、絵は描きますか?
たなかさん「仕事が詰まってストレスがたまってくると、あぁ、こんなことしてる場合じゃないのにって思いながら、めちゃくちゃスケベな絵をインスタにアップします(笑)」
ーー 仕事という制約の中で描く絵と、まったく自由に描く絵と。
たなかさん「私にとっては、どちらも大切です。制約のあるほうが成長できるし、発見も多い。でも、片方だけでは続けられないなと」
この時代、この想いを、
今すぐ表現したいから。
ーーお気に入りの画材はありますか?
たなかさん「主線はミリペンですね。0.4とか、0.5とか。太いマーカーペンで大胆に描くときもあります。着色は、主に水彩ペンで」
ーー今回初めて手にしたABTの使い心地は?
たなかさん「気持ちいいですね、このペン。108色もあるなんて……!私、小さいころからお絵かき大好きっ子で、何でもペンで描いてたんです。ときめいちゃうなぁ〜」
ーー大学ではどのような勉強を?
たなかさん「絵画専攻で、油画を描いていました。でも、ある時期から、面を塗り重ねるより、線で描くほうが私には向いている気がしてきて。3年次から、線画に似た感覚で描ける銅版画コースに進みました」。
ーー 銅版画って、工程がとても多いですよね。
たなかさん「そう、作品ができ上がるまでのプロセスがものすごく大変なんです。絵を描いている以外の工程がとても多くて、銅版を削って磨いて、腐食防止剤を塗ったら、また削って……。でも、そういう手間のかかる表現方法を学んだおかげで、自分の絵を一歩引いて客観的に見られるようになりました」
ーー卒業後は、巡りめぐって幼いころから親しんできた線画に?
たなかさん「戻りましたね、やっぱり。ふとした思いや生活の一部をすぐ作品にできるほうが、私の性格には合っているんだと思います」
自分らしいスタイルの探求。
それこそが『FUN ART』。
ーーたなかさんのイラストは、ジャンルを超えて、本当にいろいろな媒体でお見かけします。
たなかさん「映画を観てイラストでレビューを描いて欲しいというオファーが入ったり、音楽CDのジャケット依頼があったり。『なるほど、この作品と、私のテイストを掛け合わせたいと思ってくれたんだ』という面白さがあります。自分一人で発信しているだけではたどり着けない次元にまで連れていってもらえるので、そのつど学びがありますね」
ーー 独創的な画風が、新たな化学反応を引き起こすのですね。
たなかさん「女の子の裸をここまで描く人は、確かにあまりいないかも」
ーー「エロティシズム」は、駆け出しのころからテーマだったんですか?
たなかさん「セクシャルな感情って、幸せになったり、トラウマになったり、振れ幅が大きくて面白いなという気持ちはもともとありながら最初はファッションを意識した方向でイラストを描いていました。その方が仕事が沢山あるような気がしてそのうち仕事をこなしている様な気持ちになってしまい、このままでは面白くないなと思い、叙々に自分が興味を抱いていたセクシャルな表現に変えていきました。そちらの方が嘘なく描けるような感じがして。」
ーー イラストに添えられる言葉も独特で素敵です。文章のインスピレーションは、どこから?
たなかさん「詩集は、よく読みます。物語の見出しや背表紙などからストーリーを想像するのも好きです。私たちはもう『自分で考えなければいけない時代』に差しかかっていて。だから、読み手の想像力をかき立てる思わせぶりな文章に惹かれるんです」
ーー 今、描いてみたいものって、ありますか?
たなかさん「そうですね……お酒好きとしては、某酒造メーカーの3代目カッパを描かせてもらうのが密かな夢です。セクシーでしなやかな線の2代目カッパ(故・小島功さんのデザイン)に、勝手ながら親近感を抱いてまして」
ーーインスタやツイッターから広がるご縁も多いのでは?
たなかさん「自分の好きなものをアップできるし、すぐ見てもらえるので、モチベーションにもつながっています。普段から愛飲しているワンカップ大関は、無意識にイラストに描いていたことがきっかけで、コラボレーションのご提案をいただきました。これからも、絵をきっかけに好きなものとつながっていけたら、とても嬉しいですね」
ーーSNSで発信するとき、心がけていることはありますか?
たなかさん「なるべく嘘をつかない。自分を作らない。誰かに見られてるって意識すると、邪念が入って、ついカッコつけちゃうんですけど。カッコ悪くなったときに、言い訳できなくなる。 それって、すごく恥ずかしいじゃないですか」
ーー大人になると、どうしても人の目を気にしてしまいがちです。絵の上手下手なども……
たなかさん「小さいころは、上手とか下手とか、そんな風に自分をカテゴライズしないで、手を動かして描くこと自体を楽んでいたはず。『FUN ART』って、その感覚なんじゃないかなって。誰に見せるでもなく、自分のために描く時間って、良いものですよ」
Profile
たなか みさき
日本大学芸術学部卒業後、フリーランスのイラストレーターとして活動。2017年には初の作品集『ずっと一緒にいられない』(パルコ出版)を刊行。既成概念にとらわれないユニークな個展や、音楽・映画・ファッションなど業界を超えたコラボレーション企画を多数手がけている。今秋からはJ-WAVEの新番組「MIDNIGHT CHIME」(月曜深夜2:00〜)のナビゲーターも。インスタのフォロワー数は31万人超(2019年11月14日現在)。