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【FUN ART LOVERS】Vol.26 大塚 愛
24時間365日すべての瞬間が、表現に結びついている

2023年9月にデビュー20周年を迎えるシンガーソングライターの大塚 愛さん。子どもの頃から音楽に限らず、漫画や動画の制作などさまざまな創作活動を経験してきました。また、油絵で過去の楽曲をモチーフにした作品をつくるなど、表現の幅を広げて活動を続けています。今回は大塚 愛さんのアートとの向き合い方や、その変化について伺いました。

 


 
ピアノが下手ではじめた曲作りが
生涯の仕事になるまで

 

ーーシンガーソングライターとして2003年にデビューされてから20周年をむかえられましたが、音楽で生きていこうと決めたきっかけを教えてください。

 

きっかけ、というと就職活動になるかもしれません。保育士や幼稚園教諭の資格を取得できる学校に通っていたのですが、いざ卒業を目前にしてみると「(先生として働くのは)無理かもしれない」と思ってしまったんです。「自分には何ができるだろう」と改めて考えたときに残ったのが音楽でした。

 

 

ーー以前から音楽がお好きだったことも影響しているのでしょうか?

 

好きというよりは、当時は本当にできることが少なすぎて。アルバイトも全然頑張れないし「自分はちょっとダメな人間だな」と思っていました。いろんな選択肢の中から選んだというよりは、音楽なら頑張れるかもしれないとおもってこの道に進むことを決めました。

 

 

ーー曲作り自体は、さらに前からはじめていましたよね。

 

曲作りをするようになったのは、ピアノが下手すぎたからなんです。小さい頃からピアノを習っていたのですが、発表会が近づいてきた時に先生に「既製曲を弾くと下手であることが観客にバレてしまう」と言われてしまって(笑)。「自分の曲を作って弾けば比較されないで済むでしょ」ってことでオリジナル曲をつくって発表会に臨んだのが15歳の時でした。

 

 

 

ーー自発的に曲作りをするようになったのはいつからですか?

 

15歳の頃からです。いわゆるヒット曲ばかりを聞いて育ってきたのですが、当時は、元気ハツラツとした曲はあまりつくっておらず、ずっと暗い感じの曲ばかりつくっていました。

 

 

ーーヒット曲もいろいろあると思いますが、どのような曲を聞いて育ってきたのでしょうか?

 

当時は連続ドラマ全盛期ということもあり、ドラマを見ながらその主題歌を聞き倒していたように思います。

 

 

ーーデビュー当時から今に至るまで、曲作りに対するモチベーションや目的意識に変化はありますか?

 

曲作りをはじめた頃はそれ以外にやりたいことも趣味もなかったので、脇目も振らずひたすら曲作りをしていました。デビューして仕事になってからは、どんなものが受け入れられるのか、何を求められているのかをいちばんに意識していたのですが、途中でそれをずっと続けるのは苦しいということに気づいて、いまは自分の好きなものを表現したいと考えています。

 

 

ーーお話を伺っていると3つのフェーズがあるように見えますね。

 

そうですね、デビューして最初の頃は生活が安定しなかったら……とかクビになったらどうしよう……とかそういうことばかり考えていましたが、今は改めて自分が好きなものに触れたり、つくったりすることを大切にしています。

 

 

ーーつくられる曲のテーマやアイディアはどのようなところからきているのでしょうか。

 

曲にもよるんです。 実体験100%のものもあれば、想像で書くこともあって、結構バラバラなんですけど、思ってもないことを書く気はありません。近しい友達に乗り移った体で曲作りをすることもあります。

 

 

ーーすごくユニークなことだと思うのですが、この人に乗り移ってみよう、この出来事にフォーカスしてみよう、と決める基準みたいなものはあるのでしょうか?

 

明確な基準があるわけではないのですが、普段から没入してしまう癖がありますね。例えば好きなドラマの最終回のその後の物語を勝手に想像してみる。で、その主人公になりきったまま料理をしてみるとか。ジブリの物語の主人公になった気持ちで外を歩いてみることもあります。

 

 

ーー乗り移る感覚はすごく共感できます。映画を見終わったあとのちょっとふわふわした中で続編を考えるような……。ライトな二次創作ですね。

 

そうなんですよ。主人公に乗り移って勝手に次の人生を生きてみるイメージです。

ご友人やご家族、周囲の方だけでなく映画やドラマなどのキャラクターに目を光らせている印象を受けますが、日々の出来事やニュース、目にした景色などに影響を受けることもあるのでしょうか?

そういう意味では生きている中で触れたものすべてが曲作りに影響を与えているといえます。その時の経験や目にしたもの、感情が時を経て表れることもあれば、その時の衝動で書くこともあります。基本的に「よし書こう」というスタンスでいるわけではなくて、そのとき降ってきたもの、出てきたものを放出しています。

 

 

 

ーーメロディと歌詞、どちらが先に出てくるのでしょうか?

 

メロディです。メロディが持ってる言葉を化石探しのように発掘する。そこで出てきた言葉たちを、どのようにまとめていくべきか考えるフェーズに至ってはじめて「よし書こう」という気持ちになる。

 

 

ーーなるほど。「この時間に曲作りをしよう」というようなことはほとんどないですか?

 

そうですね、できないです。

 

 

ーー曲作りをしてる時に、充実感や達成感を感じることはありますか?

 

割合で言うと苦しい方が多いと思います(笑)。全体像ができたり、完成が確信できた時はホッとするけれど、そこにたどり着くまでの辛さが結構すごいんです。「このメロディだ!」と何かアイデアが浮かんできた時は嬉しいのですが、次の瞬間から具現化に向けては辛いゾーンに入っていく感覚です。

頭の中でメロディを作り上げたときには「結構いい感じ」と思っても、実際に口から出した時に自分の声質とまったく合わない、なんてこともあります。 自分の体から音が出て初めて客観視できる。調整を重ねてアレンジを入れて、完成形が見えるまでその苦しさは続きます。

 

 

ーー今お話いただいた「創作の苦しさ」ですが、 デビュー当時から今に至るまで変わった点はありますか?

 

デビュー当時から20年かけて徐々に自分の思考の癖を自分で理解できるようになったのか、苦しい時間は短くなっている気がします。寝ているときでも、起きたばかりでボーっとしていようとも、メロディが聞こえてきたら曲を起こすことに専念します。聞こえない時は本当にずっと聞こえてこないんですよ。なので聞こえた時は最優先。友人と道を歩いているときもちょっと待っていてもらいます(笑)。

 

 

ーー24時間常に臨戦態勢にすることで曲作りに備えているように見えます。

 

そうですね、どんなに眠くてもメロディが聞こえたら起きて立ち上がらなければいけない、という気持ちで日々暮らしています。

 

 

ーー日々の生活の中でのご自身の経験や、周囲のちょっとした変化に真摯に向き合いながら曲作りをされていることがわかりました。

 

あとは、曖昧なままでも前に進む勇気を持てるようになりました。最初の頃は完璧じゃないと進めなかった。ゴールがちゃんと見えてるか が判断できないとスタジオにも入れなかったんです。でもいろいろな可能性を含みながら進むのもアリだと思えるようになったんです。

 

 

ーー音楽活動について、今後挑戦したいことやデビュー20周年をむかえられてなにか感じることはありますか?

 

挑戦してみたいことはたくさんありますが、いま興味があるのはドラマのサントラに関わること。先ほどもお話しましたが、ドラマが好きなのでサントラ部分で関わることができたらうれしいですね。あとはプロデュース業に力を入れていきたい気持ちもあります。

 

 

おばあちゃんになっても続けられる趣味で
自分の作品を再認識する

 

ーー大塚さんは絵本の制作を始め、これまで発表された楽曲をモチーフに油絵の作品をつくられていますが、絵を描き始めたきっかけを教えてください。

 

小学生の頃に漫画にハマって、 友達と交代で漫画のストーリーを描いて繋いでいく、交換日記(リレー小説)の漫画版をしていたのですが、そこで絵を描く楽しみを知りました。

 

 

 

ーー交代で漫画を? あまり聞いたことがないですが、周囲に同じようなことをしていた方がいたのでしょうか。

 

いや、いなかったです。私が結構そういう今まで誰もやってないことに挑戦してみたいタイプで、友人に声をかけてはじめました。当時はりぼんやなかよしなどの少女まんが雑誌から入って、ジャンプなどの男の子たちが読んでいた漫画にも手を出して……とにかくいろいろな漫画を読んでいました。そこから自分でも描いてみたいと思って、そういえば小学生の頃にはオーディションに応募したこともありました。賞にはまったく引っかからなかったんですけど。

 

 

ーー創作に対する熱量が高かったんですね。

 

小さい頃からとにかく自分でなんでもつくってみたい! という気持ちが強かったように思います。ミュージックビデオをつくったこともありました。1曲フルではなくて、音楽番組のランキングコーナーで流れるサビのワンフレーズくらいの短いものをいくつか作って遊んでいました。

 

 

ーーTikTok的な。

 

そうそう(笑)。他にも貞子やリングっぽいホラー映像を撮ってみよう、と撮影の仕方を調べていたこともありました。

 

 

ーー創作に対する熱意が本当に高いですよね。音楽の活動以外にも、先ほどお話しいただいた絵を描くことや、俳優としての活動などさまざまな表現に挑戦されていますが、それぞれ向き合い方は変わりますか?

 

音楽はソロだし、周りを気にしてどうこうするというよりも自分が全責任を負ってゴールまで突き進むことになりますが、ドラマや映画はチームワークが必要とされる仕事です。リーダーである監督の求めるものにいかに近づけていくのかが課題になるので、使う筋肉が変わります。

俳優として映画に出演させていただく機会があったときに、チームでの戦い方の難しさを学びました。他の出演者さんや制作陣と関係性をつくりながら長時間演じ続ける俳優さんたちを見て、本当にすごいことをされているのだと、改めて実感しました。

 

 
 
ーー油絵を描きはじめてなにか変わったことや、自分の中での気付きなど有りましたら教えてください。

 

油絵を本格的に描き始めたのは娘が生まれてから。何か娘とできる趣味はないかと探しているときに油絵の具に出会ったのですが、絵を描き始めたことで自分の性格のよくない部分がすごくはっきりわかったんです。わたしは衝動的にわきあがったものをその場に放出するような、瞬発力には自信があるのですが、 物事を少し引いて見てみる、全体を捉える力が弱い。 曲を書いてるといつの間にか視野が狭くなって狭い範囲で物事を見ていることがあるのですが、絵を描き始めたことで「引いて見る」大切さに気付きました。

最初は趣味ではじめましたが、今はとことん油絵のレベルを上げたいと思っていて、家に入り切らないくらい作品がたまっています。娘からもクレームがきました(笑)。

 

 

ーークレーム(笑)。娘さんと一緒に絵を描くこともあるのでしょうか。

 

彼女も絵を描くことが大好きなのですが、もう一緒に描いて遊ぼうというフェーズにはいません(笑)。本人的にうまく描けた時は見せてくれるのですが、私のことをライバル視しているんですよ。この前も「ママは尊敬できる先輩・恩師であり、最大の敵でもある」というようなことを言われました。

 

 

ーーすてきな関係ですね。それぞれ自分の好きな絵を描いて高めあう好敵手のような。もともとは趣味ではじめられた油絵ですが、今後はどのように向き合っていきたいですか?

 

わたしは一体いつまで歌えるだろう、と考えたときに、音楽をつくることはできても、いつか歌えなくなる日が来るかもしれない。そんなときに続けられるものが欲しい、という意味も込めて絵を続けています。すごいおばあちゃんになったら、描いた絵をしれっとネットで売っちゃおうかな、なんて(笑)。あとは最終的にニューヨークで展示される、という目標もあります。

 

 

ーー実はこっそり売っていました、みたいな(笑)。すてきな目標ですね。音楽は、24時間365日頭がフル稼働だと思いますが、絵に関しては決めている習慣やマイルールはありますか?

 

油絵は乾燥の工程があるので、乾かしている最中も常に自分が見える範囲の部屋の中に置いて、その日の気分を大切にして、曲作りのときと同じように「これだ!」という表現が見えてきたときに描きます。作品にかける時間もまちまちです。

 

 

ーーそれでは本日お持ちいただいた作品について教えてください。どちらも以前発表された楽曲をモチーフにされていますね。

 

ひとつめは2005年に発表した『羽ありたまご』をモチーフにした絵です。当時は、自分が思う本当の姿と世間から見たイメージの差が大きかったのですが、そのギャップというよりは押し付けられているような感覚が辛かった。根本的に自由が大好きなので、求められすぎてがんじがらめな状態が辛かった。飛べる力はあるのに飛べない、もどかしかったあの頃を振り返って絵にしました。

 

 

ふたつめは2017年に発表した『HEY!BEAR』をモチーフにした絵で、「父性」がひとつのテーマになっています。わたしの父はかなり荒いというか、なんでもとにかくやってみろタイプの育て方だったのですが、そんな父の姿を少し思い起こさせるような「人生は冒険だよ」というメッセージを表現しています。

 

 

ーーいろんな視点から見ることができますね。いまはデジタルでより手軽に絵を描く事ができるようになっていますが、そんな中でも手描きにこだわる理由はなんでしょうか。

 

やっぱり完成した作品が形のあるものとして残る良さはあると思います。デジタルで描く方が楽であることは間違いないんでしょうけど、絵を描いているときの手触り感も含めて、手描きに魅力を感じています。CDや紙の本が好きですし、昭和的感覚なのかな?

 

 

アート=自由
他者の目を気にせず「自分の好き」を貫いて

 

ーー大塚さんにとっての「FUN ART(=アートを楽しむこと)」はどんな存在ですか? 楽曲制作や絵を描くこと、俳優として役を演じることなど表現は多岐にわたるとおもいますが、大塚さんのなかでどのような立ち位置になっているのでしょうか。

 

自由でありたいという気持ちとは切っても切り離せないと思っています。アートって本当に自由ですよね。アート=自由だといっても過言ではない。私がこの仕事をしているのは必然的なことかもしれません。

 

 

ーー曲作りの中では辛いタイミングの方が多いという話もありましたが、 自由が確保されるのであればその辛さも乗り越えられる、と?

 

そうですね、自由ってすばらしいけれど、辛いことでもある。誰かが導いてくれるわけではないし「これ!」という正解があるわけでもない。今日の気分としては正解だと思っても、明日になったら「やっぱり違う」こともあるし、何年か経ってから「あれは正解だった」と思えることもあれば、いつまで経ってもわからないこともあります。それでも悩みながらでも前に進むしかないんですよね。

 

 

ーー自由を大切にするために自分と向き合っていらっしゃるんですね。今回審査員として参加いただくイラスト投稿キャンペーン「みんなで花火を打ち上げよう!#FUNARTHANABI」についてもお聞きしたいのですが、花火をテーマにしたイラストを募集するということで、大塚さんにも描いていただきましたね。
(参考)https://tombow-funart.com/topics/event/13631/

 

ものすごくハイクラスなお題が来たな、と思いました(笑)。わたしはまだ制作途中ですが*色鉛筆で色を重ねてみたり、削り方を調整したり、実験のように楽しんでいます。一色でも濃さによってまったく違う雰囲気になりますし、いくつかの色を重ねることで新しい色味が生まれるのも色鉛筆ならではの面白さですよね。
*インタビュー当時
 
 
ーー最後に日頃からアートに親しんでいる読者や、これから創作活動をはじめてみたいと考えている方に向けてメッセージをお願いします。

 

変な話になりますが、仕事にしようとするといろいろな苦しみが出てくることもあると思いますが、アート自体は本来100%楽しいものだとわたしは思うんです。

 

ーーなるほど。でも趣味でも、追い詰められてしまう方って意外といらっしゃるなと思うのですが。最近だとSNSでシェアして心無いコメントを寄せられて悲しい気持ちになってしまう、という人も。

 

自分のためにつくっているんだもの、自分が良ければそれでいい! の精神でいいと思いますよ。その辺の通りすがりの、顔も知らない人に「下手くそだね」って言われてもスルーしちゃう! 大体、そんなひどいコメントをする人はミュートしちゃいましょ。人の目線を気にするのではなく「自分の好き」を大切に創作を楽しんでほしいです。

 

 

 


 
Profile

大塚 愛(おおつか あい)
1982年9月9日生まれ、大阪府出身。O型。15歳から作詞•作曲を始め、2003年9月10日にシングル「桃ノ花ビラ」でメジャーデビュー。同年12月にリリースした 2ndシングル「さくらんぼ」が大ヒット。2004年には日本レコード大賞最優秀新人賞、「NHK紅白歌合戦」に初出場。シンガーソングライターとしての活動のほか、イラストレーター、絵本作家、楽曲提供、小説を寄稿するなどクリエイターとしてマルチな才能を発揮し活動中。近年は本格的に油絵を描き始め作品を発表している。
2023年9月にはデビュー20周年を迎え、同年9月9日には毎年恒例のアニバーサリー&バースデーライブを開催。
デビュー20周年を記念する豪華オリジナル“コラボ”アルバムを9/9にリリース!
発売日:2023年9月9日
タイトル:marble
レーベル:avex trax
予約サイト: https://avex.lnk.to/aio_20230909cd
公式サイト: https://avex.jp/ai/
 


 

取材・文/松原貴子
撮影/若宮 樹

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