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アート、ミュージアムの壁を飛び越える
~ミュージアム・オブ・ストリートアート Museum of Street Arts~

アーティスト・プロフィール

桐江キミコ

旅する感覚でアートを楽しむ“FUN ART JOURNEY” 
今回はアメリカ最大の都市ニューヨークからNY在住のライター、桐江キミコさんからのレポートをお届けします。
国連本部があるほか、金融、出版界などの中枢でもあり、政治、経済、ファッション、文化、エンターテインメントなどあらゆる分野で世界に影響を及ぼし、注目を集めるニューヨーク。
流行の最先端であり、アートの発祥地、街の至る所でアートを楽しむニューヨーカーたちの“FUN ART”をご紹介します。

Have a fun art journey !

 


ニューヨークには知る人ぞ知る世界3大美術館の1つとされるメトロポリタン美術館ほか、かの近代美術館やグッゲンハイム、ホイットニーなどの著名美術館ほか、ありとあらゆるジャンルのアートを扱うギャラリーが目白押しにありますが、外を歩いているだけでいろいろなアートと出会うことができます。街全体がミュージアムといってもいいぐらいです。NY編初回の今回は、ニューヨークのストリートアートの一つ、壁画(mural)を紹介します。

 

VANDAL HEART by Nick Walker

 

街中を散策していると、よく目につくのが、ビルの側面に大きく描かれた壁画です。ビルの壁は、不特定多数の人々の目に届く大きなキャンバスです。この大きなキャンバスを生かさない手はありません。
チェルシー地区の駐車場に描かれている壁画は、イギリス人のストリート・アーチスト、ニック・ウォーカーの「ヴァンダル・ハート」。あの伝説の、別名ゲリラ・アーチストとも呼ばれるバンクシーを思わせますね。それもそのはず、バンクシーはニック・ウォーカーに影響を受けたと言っています。
壁画はよく落書きされる運命にありますが、ニック・ウォーカーのこの壁画も、バブルレターのグラフィティがされています。

 

AUDREY OF MULBERRY by Tristan Eaton

 

カフェやブティック、レストランが並ぶおしゃれなリトル・イタリーのマルベリー通りには、「リトルイタリー・ストリートアート・プロジェクト(LISA Project)」に参加したトリスタン・イートンによるオードリー・ヘプバーンのポートレートがあります。イートンは、世界中に100もの壁画を制作していますが、おもちゃのデザインやイラスト、グラフィックデザインなども手掛ける多才なアーチストです。
「LISAプロジェクト」は、グラフィティや壁画を通して、ニューヨークの文化的景観に貢献することを目的とする慈善団体で、アートとコミュニティの橋渡しをしています。もうかれこれ10年も活動を続け、あちこちに壁画を制作しています。

 

BIG CITY OF DREAMS by Tristan Eaton

 

DOUBLE CROSSED by D*Face

 

D*Faceとして知られるイギリス出身のディーン・ストックトンの壁画、「ダブル・クロスト」もLISAプロジェクトの作品です。ストックトンも世界中で活躍し、日本でも作品を制作しています。ポップアートの巨匠、リヒテンシュタインを思わせる壁画です。残念ながら、作品そのものにはあまり被ってはいませんが、上部に落書きがされています。

 

RGB TRIBUTE by ELLE

 

ウエストコーストの出身ながら、ブルックリンをふるさとと呼ぶELLEは、男性が主流のストリートアートの世界では珍しい女性です。ELLEによるこの壁画は、2020年に87歳で亡くなった最高裁判事ルース・べーダー・ギンズバーグに捧げられています。ギンズバーグは、女性が家庭に入ることが普通だった1950年代にコーネル、ハーバード、コロンビアという一流大学に行き、弁護士、判事として先駆的キャリアを切り開きました。かっこいいですね! 性差別撤廃に尽くしたリベラル派として知られ、親愛を込めて「Notorious RGB(悪名高きRGB)」と呼ばれ、ポップアートのアイコンにもなっています。
ちなみに、壁画を描くのは、なかなかの肉体労働です。工事現場と同じように、命綱を装着してゴンドラやハシゴ車に乗り、ヘルメットをかぶり、防毒マスクをして、エアゾール塗料を噴射しながら、冬は酷寒、夏は酷暑の中、黙々と制作するのです。「きつい」「汚い」「危険」の3K労働ともいえます。が、そうやって真剣に壁画を制作するELLEも、RGB同様、かっこいいですね!

 

EQUALITY LIFTS by Kelsey Montague (@kelseymontagueart)

 

やはり国際的に活躍する女性のストリート・アーチスト、ケルシー・モンタギューは、夢のあるユニークな壁画で知られています。彼女の作品は、美しいチョウチョウや鳥の羽、木からぶら下がるブランコ、空を飛ぶ気球など、前に立つと、壁画の一部になってしまうというインターアクティヴな仕掛けになっています。虹のアーチをくぐったり、風船の束をつかんで空を飛んだり、クジャクの羽を背にはやしたり――一方通行でなく、人を招き入れることによってケルシーの壁画は完成するのです。
さて、ノリ―タ(North of Little Italy)にあったこの壁画は、残念ながら今はなくなってしまったのですが、ケルシーの「What Lifts You(あなたを高揚させるもの)」プロジェクトの一環で、黒と白の2色を使っていることからわかる通り、人種間の平等をテーマにしています。ほかにケルシーのニューヨークの作品には、たくさんのカラフルなハートが舞い上がっていくように描かれた壁画があります。ニューヨークの名所の一つ、高架プロムナードの「ハイライン」からよく見えますが、その壁画に並ぶようにして立って投げキスをするポーズを取ると、まるでハートが口から飛び上がっていくように見える仕掛けになっています。

 

TEMPER TOT by Roy English

 

ポップ・アーチストのロイ・イングリッシュによる「テンパー・トット」は一度見たら忘れられない壁画です。リトル・イタリーの名物になり、いつ通りがかっても写真を撮っている人がいます。フィギア人形にもなったテンパー・トット、後述のバワリーの壁画にも、ジャイアント版が登場しました。

 

CRACK IS WACK by Keith Haring ©NYC Parks

 

そして、これは、かの有名なポップ・アーチスト、キース・へリングの壁画、「Crack is Wack(クラックは有害)」。1986年、当時社会問題になっていたクラック・コカインの警鐘として制作されたものです。許可なしにハンドボール・コートの壁に描いたため、へリングは公共物破損の罪で逮捕されましたが、メディアや地元市民が彼の反ドラッグ活動を支持して抗議したため、25ドルという少額の罰金で釈放されることになりました。
その後、オリジナルの壁画が落書きされてクラック支持の文句に書き換えられてしまったため、慌てたニューヨーク市当局は、改めて正式にヘリングに壁画を描くように依頼。へリングは、8か所に壁画を制作しました。このオリジナルの壁画は、その後、20年もたって老朽化したことから、2007年に丁重に修復され、今に至っています。

 

HAMMER BOY by Banksy

 

さて、かの有名なストリート・アーチストの第一人者、バンクシーの作品もあります。世界中に神出鬼没に作品を残していくバンクシーの正体はいろいろ憶測されていますが、不明なままです。
サザビーズのオークション中におよそ100万ポンドで落札されたばかりの絵をシュレッダーで細断してしまった事件は有名ですね。バンクシーによると、シュレッダーがうまく機能せず、途中で止まってしまったということです。サザビーズ側もぐるになっていたのではないかと憶測もされましたが、それはバンクシー自身が全面的に否定しています。
ちなみに、この半分細断された作品は、元のタイトルの「Girl with Balloon (風船を持つ少女)」を「Love is in the Bin(愛はゴミ箱の中)」と変えて、3年後に、内臓されたシュレッダーと共にそのままオークションにかけられました。つまり、サザビーズも言うように、ライブ・オークション中に制作された(注:破壊されたのではない!)史上初の作品となったわけです。しかも、細断される前の落札価格の10数倍、およそ1860万ポンドで落札されました。

 

さて、バンクシーは、2013年10月にニューヨークを突如現れ、その1カ月の間、連日、マンハッタン、クィーンズ、ブルックリン、スタッテンアイランド、ブロンクスの全5区にいろいろな作品を残していきました。多くが手早く仕上げることのできるステンシル作品でしたが、13日目には、セントラルパーク沿いで、サイン入りのオリジナル作品25枚を1作60ドルで販売しました。だれもバンクシーの作品とは気づかず、1日の終わりの購入者はたった3人で、全8枚の売り上げは420ドル。内の1人の年配の女性は、半額に値切って2枚買っていったそうです。
知っていれば、万難を排して買いに行ったのに残念です――けれど、まる1日、屋台が出ていながら、買った人でさえ、それが本物のバンクシーの作品だとは気づかなかったのです。この日に販売された内の2枚は、1年後にオークションにかけられて、21万4000ドルで落札されたということです。

 

アッパーウエストサイドに出現した「ハンマーボーイ」は、20日目、セントラルパークを横切るクロスタウン・バスの停留所の真ん前の、交通量と人通りの多い場所に出現しました。
ちなみに、バンクシーがニューヨークに残した作品は、盗まれたり壊されたりして、残っているものが少なく、「ハンマーボーイ」は、今はプレキシガラスで保護されています。上に「Help Zabers save this Banksy」と書かれていますが、ゼイバーズとは、付近にある1934年創業の有名なグルメ・デリのこと。この作品の保存を呼びかけています。すでに有名なゼイバーズの宣伝にも役立っているわけです。ここでは、排水管の上に頭を乗せて記念写真を撮る人が後を絶ちません。

 

MT RUSHMORE OF ART by Eduardo Kobra

 

そして、これもまた世界的に有名なブラジル出身のストリート・アーチスト、エデュアルド・コブラの「マウント・ラシュモア・オブ・アート」。サウスダコタ州にあるマウント・ラシュモアは、山腹にワシントン、ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、リンカーンの4大統領の彫像が彫られていますが、コブラの選んだのは、アンディ・ウォーホール、フリーダ・カーロ、キース・へリング、ジャン=ミシェル・バスキアという4人のアーチスト。4人はコブラが敬愛するアーチストで、ニューヨークにも深い関わりがあります。
サンパウロの貧民街で育ったコブラは、独学で絵を学び、第一線の壁画家になりました。「今自分のいるところを思うと感慨深い」と言っています。これまでに世界中に3000もの壁画を描いており、日本にも作品があります。

 

GREAT IS RIDING A BIKE by Eduardo Kobra

 

コブラのアインシュタインの壁画は、ミッドタウン・イーストとチェルシーの2か所にあります。ある日、アッパーウエストにある自転車に乗ったアインシュタインの壁画の写真を撮りに出たところ、前にある高い木の葉が茂って見えなくなっていました! でも、だいじょうぶ、葉の生い茂る春から夏にかけてニューヨークを訪れても、ほかにもコブラの壁画があります。コブラは、ニューヨーク滞在中の5カ月間に18もの壁画を制作したのです。それぞれに社会的なメッセージを含ませていて、この壁画は、アインシュタインが息子に宛てた手紙に「人生とは自転車に乗るようなものだ。バランスを保つためには、動き続けなければならない」と書いたメッセージに寄せています。

 

WE LOVE NY2 by Eduardo Kobra

 

BLACK AND WHITE by Eduardo Kobra

 

STORY OF MY LIFE by Logan Hicks

 

さて、ニューヨークにおける最も有名な壁画のキャンバス壁は、交通量の多いハウストン通り(Houstonと書いてヒューストンではなく、ハウストンと呼ぶ)に沿った「バワリーウォールの壁画(Bowery Wall Murals)」でしょう。70フィート×20フィート(21メートルx6メートル)の大きな壁です。1982年にキース・ヘリングがここに壁画を制作したことが始まりです。2008年以降、不動産デベロッパーのゴールドマンが「アートを壮大なスケールで一般の人々に届ける」ことを使命に、この壁を大型壁画に使用する手はずを整え、アメリカ国内外からの著名もしくは新進のストリート・アーチストを招聘して制作を委託するようになりました。バンクシーも非常に政治的な壁画をここに制作しましたが、この作品については、また後日、触れることにします。
この取り組みを通じて、半年から1年ごとに新しい作品が描かれていますが、コンテンポラリーアーチストのローガン・ヒックスによる「Story of My Life」は、最も印象的なものの一つでした。ヒックスはステンシルを使った写実的なスタイルで知られています。ここでのプロジェクトのために、ヒックスは、まずは何千枚もの写真を撮って合成イメージを作り、それを元に1050枚ものステンシルを作って制作しました。描かれた150人は、ヒックスの友人、家族、ニューヨーク周辺に住む個人的な知人ということです。前を歩いている人たちも、壁画に溶け込んでいるように見えませんか。

 

 

 

壁画は、ニューヨークの街をよりアーティスティックに、より豊かにする効果をもたらしています。いくら土地があるからといって、ミッドウエストの見渡す限り続くトウモロコシ畑の海原に壁画を制作しても、鑑賞する人がいなければ意味がありません。ニューヨークは人口が密集し、アメリカでもっとも観光客の多い観光都市です。そして、ビルがたくさんある垂直な都市で、壁画用のキャンバスが豊富にあります。しかも、ニューヨークにはアートに対する理解が存在します。

 

DAVID BOWIE by Eduardo Kobra

 

ある日突然、デヴィッド・ボウイの巨大な壁画が窓の外の風景を占領してしまったとしたら――?
アートを容認し、サポートする機運がなければ、ストリートアートは存在できません。地元の理解と協力が不可欠です。ちなみに、ハドソン川の向こう岸にあるジャージーシティで、市の助成プログラムによってビルの側面に高さ55メートルもある巨大なデヴィッド・ボウイの壁画ができたとき、コブラは「みんな喜んでくれた。反響はすごかった」と述べています。

 

あるストリート・アーチストから聞いた話ですが、歩道にパステルで絵を描いていたところ(注:パステルはいつか消える)、警官に連行されると、周りにいた人々が警官に抗議して悪口雑言を浴びせかけたそうです。そして、出頭した裁判では、無罪の判決を下した裁判官に「今後つかまったら、表現の自由だと主張するように」と耳打ちされたということです。
けれど、この歩み寄りも時間をかけて形成されてきました。ドラッグと犯罪の蔓延した1970年代から1980年代にかけて、ニューヨークの地下鉄は、車両内外、駅構内に、ともすると挑戦的なグラフィッティが描かれました。市当局が監視を厳しくし、グラフィッティを描けない車両を導入して取り締まった結果、グラフィッティは地下から地上へと流れていきました。そこで、地上での監視も厳しくし、18歳(のちに21歳)以下に対するエアゾール塗料の販売を禁止したりして取り締まっていく一方、届け出をして許可を得れば一部の場所にグラフィティや壁画を描けるプログラムや、子供たちや一般を参加させる壁画プロジェクトなど地道な努力も始まりました。グラフィッティ・アーチストたちも、反社会的なメッセージでなく、反暴力、反ドラッグ、環境や人権問題などの社会的メッセージを訴えるようになって、一般市民も受け入れるようになっていきました。

 

ところが、今回、バワリーの壁画の写真を撮りに行ったところ、どうもいつもと様子が違うのです。最初は、場所を間違えたのかと思い、そうでないとわかると、わざとアンプロフェッショナルに見せかけたプロの作品か??とも思いましたが、それにしてもやっぱりおかしいのは「THE END」と真っ黒なペンキで壁一面に書かれた文句です。なぜなら、本来のストリート・アーチストは、社会を拒絶したり、あざけったりするような文句はけっして書かないからです。お金を払ってアートを鑑賞する美術館という聖域ではなく、一般の人々の生活空間の中に入り込んだストリートアートは、人々と共存しなければならない以上、共通の基盤を築く必要があります。元々、ストリート・アーチストがストリート・アーチストであるゆえんは、美術館の壁を越えて、一般の不特定多数の人々とコネクトすることにあります。コブラは、「誰もがアートにアクセスできるよう、一般の人々がアートと対話できる場を提供することが最大の目的」と言っています。また、バンクシーがしていることは違法でありながら支持されているのは、彼の痛烈な社会風刺や政治問題の提議に人々が共鳴するせいかもしれません。
調べてみると、バワリーの壁画は、プロダクト・デザイナーでもあるアーチストのデイヴィッド・フローレスが委託されて制作した作品をだれかが消火器にペンキを入れて噴射し、台無しにしたのです。そこで、ゴールドマン側は、今までホストしてきた壁画のサポートをいったん白紙に戻し、しばらく様子見することにすると声明を発表しました。以来、この壁は、匿名の侵入者によって、何度も描き返られているそうです。スポンサーや委託されたアーチストだけでなく、地域のコミュニティに対しても冒涜だと非難の声が上がっています。

 

コロナ禍以来、ニューヨークは犯罪や暴力が増えるようになってきました。一部の心ない人達によって、せっかく勢いづいていた地域のストリートアート推進の機運に水を差されるのは悲しいですよね。
ゴールドマン側は、このようなヴァンダリズムは、「数知れない多くのアーチストの機会を台無しにするだけでなく、近隣の人々が輝かしい世界クラスのアートと共に暮らす機会を台無しにする。バワリーの壁は、単なる広告の壁になる可能性もあるが、ムーブメントの最良のものを示す力強い道標であってほしい」と言っています。

 

ストリートアートは公共の場にある以上、共同で守り、育てていかねばならず、それには、受け身で鑑賞するだけでなく、問題を提起し、意見を交わし合い、頭を寄せ合って解決方法を模索していく必要があります。ストリートアートは、アーチストだけでなく、一般の人々の積極的な参加を促す機会をも提供しているわけです。

 


撮影・文/桐江キミコ

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