
2020.4.27
【FUN ART LOVERS】 Vol.7 香菜子
小手先じゃなくて、 もっと深いところから、
描いたり、作らないと、 人の心は動かない。
モデル、イラストレーター、そして、デザイナー、母親と、さまざまな顔を持つ香菜子さん。幼少時代は染色作家のお父さまのアトリエで服づくりをしたり、美大時代は陶芸に夢中になり、そして、結婚・出産後は雑貨づくり。その後、友人からの誘いを機にイラストを描くように。コンテンツは変われど、常に“ものづくり”が身近にあり続ける香菜子さんの『FUN ART』な日常を覗かせてもらいました。
————最近はどんなイラストを描かれていますか? 使用している画材もぜひ、教えてください。
「以前は出版社などのクライアントさんからご依頼をいただいて描くことが多かったんですが、今は自分発信のほうが多め。『HOTEL VILHELMS(ホテルヴィルヘルムス)』という、ラトビアにある架空のホテルをイメージしたブランドを主宰しているのですが、そこでポスターにする鳥やキャンドルのイラストなどを描いたりしています。仕事のイラストはクライアントさんの要望によって、デジタルと手描きの両方で対応していますが、自分発信のイラストはほとんどが手描き。スキャンして、データにすることはありますが、自分の手を使い、油性の黒ペンや濃い鉛筆、水彩絵の具などの画材で描いていますよ」

『HOTEL VILHELMS』のポスター。ラトビアの鳥(日本でいうところの雀)を濃い鉛筆で描いています。「販売はA2サイズでしたが、これは夫が特大サイズに印刷したものです」(香菜子さん)

自身のエッセイの挿絵として描いた水彩画。右は「5W1H」、左は「忙しい母」がテーマ。「料理、仕事、打ち合わせと、忙しい母を表現するために手でレードル、鉛筆、スケジュールメモを握っているイラストにしました。色みは好きな中間色で」(香菜子さん)

アイデアノートには、イラストやものづくりのソースになるものを描いたり、心に響いた言葉、打ち合わせで話した内容を書いたり。「このノートは仕事のときに大活躍。あとから見返すために、歴代のアイデアノートは全て保管しています」(香菜子さん)

花の仕事を始める友人からのオーダーで描いたリースのイラスト。植物を描くのが大好きな香菜子さん。
————そもそも、イラストはどうして描くようになったのですか?
「私は美大出身ですが、美術学部の工芸科・陶芸専攻で。高校時代、美大に行くための予備校でデッサンは描いていたけど、その後、イラストは描いていませんでした。でも、2人目が産まれて少し経った、心にある程度余裕が出た頃、高校時代からの友人であるイタリアンレストラン『LIFE』のオーナーシェフ・相場正一郎くんから、『僕の著書に挿絵、メニューにフードのイラストを描いてくれない?』と頼まれて。彼は私が昔、デッサンを描いているのを知っていて、声をかけてくれたんです。とは言っても、自分は本格的なイラストを描いたことがないので、受けて良いものか少し悩みました。でも、『せっかく頼んでくれたんだし、やってみよう!』と一念発起。そこから、イラストの仕事をするようになりました」
————普段、どんなタイムスケジュールでイラストを描いていますか? 香菜子さんはお母さんでもありますが、ON・OFFはどうしているのでしょう?
「平日は10時頃から17時頃までは、自宅のアトリエでイラストを描いたり、自分のブランドのファブリックアイテムをミシンで製作したり。どんなに作業がノッテいても、17時を目処に中断して、スーパーに買い出しに行ったり、夕食作りをスタートさせます。私は子どもがいるから、人間らしい生活ができているんです(笑)。そうじゃなかったら、寝食を忘れるようなワーカホリックだったでしょうね。ちなみにモデルの仕事の日はまた全然違うスケジュール。いろんな顔や役割を持っていることは、私には刺激的で楽しいです」

自宅の一室がアトリエ。自然光がたっぷり入るこの空間で、お気に入りの音楽をかけながら、イラストを描いたり、ミシンをかけたりしているそう。
歳を重ねて、無駄なものを手放すように。
そしたら、イラストのタッチもシンプルに!
————経験やキャリアを重ねることで、イラストのタッチや生き方に変化はあるのでしょうか?
「すごく変わりました。イラストのタッチは写実的だった昔に比べ、最近はシュッとしたシンプルな線に。生き方も迷いがなくなって、必要なもの、不必要なものがよくわかってきて、無駄なものは所有しなくなったと思います。それは家具や洋服などの物質的なものもそうだし、人間関係もそう。二人目の子どもも大きくなって、巣立つ日も遠くないでしょうから、住まいも小さな小屋のタイニーハウスでいいかなと思ったり。生き方がそんな風に変わったから、イラストのタッチも変わったんでしょうね」
————余計なものは手放している一方で、さまざまな分野において、勉強をする面白さを感じているそうですが……。
「そうなんです! 去年はアルファベットを描くワークショップにも、半年間通っていました。通おうと思った理由は、イラストに英字の言葉を添えるとき、素敵なアルファベットで書けるようになりたいと思ったから。このワークショップの先生は、『アルファベットはもっと自由に描いていいのよ』という方で。何かルールがあるわけではなく、海外の人たちが書いた昔のアルファベットをたくさん見ながら、自分も書いてみて、先生に見てもらう。そして、書き方のコツを教わるというスタイルでした。だから、同じ『a』 でも、生徒さんによって個性豊かな仕上がりになるんです」
————今回、アルファベットを書く際に「筆之助」を使ってくださったそうですが、実際使われてどうでしたか? さらに「ABT」の使い心地もお聞かせください。
「筆之助でアルファベットを書くのがすごくスムーズで。とても書きやすかったです! 細い線が書けるのもうれしい。ちなみにABTは色展開の素晴らしさ、筆の滑りや滑らかさに感動しました。これから、筆之助やABTを使って、どんどんイラストや文字を描いていきたいですね」

お気に入りのモハメド・アリ(プロボクサー)の言葉、The man who has no imagination has no wings.(想像力のない奴に、翼は持てない)やモチーフを描いたポストカード。イラストには最近、香菜子さんが好きな「NATURAL(自然)」「MANMADE(人工)」「CONSCIOUS(意識)」「SUBCONSCIOUS(無意識)」という文字を添えて。
————香菜子さんはこれから先、どんな風にイラストを描いたり、ものづくりをしていきたいですか?
「小手先でおしゃれなものを描いたり、作ることはしたくないなと思います。伝えたい理由や“好き”という気持ちなど、深いところから湧き上がるものがないと、人の心は動かないと常々思っているので。だから、私は自分が本当に描きたい、作りたいという気持ちが沸々と湧いてこないと、あまり作業しないんです。もちろん、仕事ではそんなことを言っていられませんが(笑)。
それから、私はやっぱり、手描きを大切にしたいです。 手描きはデジタルでは表現できない、心の動きの機微が表せる気がして。だから、イラストはこれからもずっと手描きを続けていきたいですね。そして、『HOTEL VILHELMS 』のものづくりも引き続き、楽しんでいきたいと思います」
———本サイトは「FUN ART STUDIO」という名前で、“日常のアートを楽しんでほしい”というメッセージを込めています。 香菜子さんが描いてくださった「FUN ART STUDIO」にはどんな思いが込められているのでしょうか?
「アートはもちろんですが、仕事も生活も全部楽しみましょう!という思いを込めました。『“楽しむ”ことは大切だよ』というのを強調したくて、指さしのイラストを添えて。色みは抑えていますが、ポップな感じにしたくて、FUN ART STUDIOの文字は鮮やかなレッドにしました。みなさんに楽しく、元気な気持ちになってもらえたら嬉しいです」

下描きなしにササッと描いてくださった香菜子さん。生き方がどんどんシンプルに、そして迷いがなくなったということを体現しているよう。
Profile
香菜子
1975年、栃木県足利市生まれ。女子美術大学工芸科陶芸専攻卒業。在学中にモデルを始める。1998年、出産を機に引退。2005年、第二子出産を機に雑貨ブランド「LOTA PRODUCT」 を設立。2008 年より、イラストレーターとしての活動もスタート。また、モデル業も復帰し、さらなる活躍の場を広げる。モデルの傍ら、2018年7月からは、架空のホテルの備品を制作するブランド「HOTEL VILHELMS 」も立ち上げる。近著に『香菜子さんのおとな服練習帖』(宝島社)がある。
https://vilhelms.thebase.in/
Instagram「@hotelvilhelms」「@kanako.lotaproduct 」