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【FUN ART LOVERS】Vol.1 津森 千里
「遊び心」をいちばんに、絵を描くように服をつくりたい。

プリミティブな色彩と手描きのタッチ、イラストレーションをそのまま服に映したような、個性的なスタイル。「ツモリチサト」の服は、独特の世界観で女性を魅了し続けています。

実はその裏側に、ABTあり。デザイン画の作成からちょっとしたメモまで、30年来のABT愛用者という津森千里さんに、“FUN ART”――アートを楽しむ生活についてお聞きします。

 

 

 

――制作全般にABTをお使いになっているのですね。ABT全色がペンホルダーに何本も揃っている様子は圧巻です。かなり使い込まれているものもありますね。

サッシュベルトのデザイン画。鉛筆のスケッチにABTで彩色されている。

 

津森さん「事務所を立ち上げたころから30年、ずいぶん長いこと使っているのだけど、“ABT”っていう名前は、このインタビューで初めて知ったの(笑)。いつも“これ”って呼んでいて、インクがかすれてきたらスタッフが補充してくれています。気に入っていた色が廃番になったときは悲しかったなぁ…。筆みたいに表情がしっかり出せて、色を混ぜたり、ぼかしたりできるところがいいのよね。すごく使い勝手がよくて、私にとっては必需品です」

 

 

――津森さんの服には、筆のかすれたタッチがそのまま残っていたり、まるで服に直接絵を描いたような個性的なプリントの作品がたくさんあります。ABTのほかにはどんな画材を使っているのですか?

 

 

津森さん「アクリル絵の具、色鉛筆、金・銀はポスターカラーをよく使うかな。ひとつの絵で、いろいろな画材を使います。画材によってタッチが違うし、きれいにまとめすぎず、どこかがアンバランスなままで、それが混在するのがおもしろいと思うのよね。時々iPadも使いますが、デジタルは便利だけどいまひとつ“愛”がないなと感じるんです。手を動かしていると、だんだん想いがこもってくるのね。どれだけ多く手をかけてあげるかで、可愛さがまったく変わってくるから、手描きは好きです」

 

 

津森さんが着用しているブラウスの原画。ABT、アクリル絵の具、色鉛筆などで描かれている。

 

 

 

 

お絵描き好きの子どもがそのまま
大きくなって洋服をつくりはじめた

 

 

――お話ししながらペンを動かしていらっしゃるのを見ると、絵を描くのが好きでしょうがない、という感じがします。

 

 

津森さん「ウフフ、バレましたね。小さい頃は漫画家になりたかったの。でもストーリーを考えるのが難しくて、じゃあ他に絵を描いていられる仕事は何があるだろう?と考えていたら、母が“洋服なら手に職をつけられるんじゃない?”とアドバイスをくれました。小学校6年間、通知表にはずっと“注意力散漫”と書かれる子だったの。次から次へと興味が移っていって、正解のあるものが大の苦手。なのに、負けず嫌い。芸術は全般好きだったけど、負けたくないから、ピアノやデッサンなど明らかに優劣がついてしまうものは何でも自分流にアレンジしていました」

 

 

――その後、文化服装学院を卒業され、イッセイミヤケさんに見出された津森さんは、若いうちから頭角を現されました。

 

津森さん「ありがたいことにね。私って、絵がうまくないでしょう?(笑)。うまくないけど、ポンと置いたときになぜか写真映えするのね。だから、津森千里はずるいってよく言われました。私も、ずるいと思う。でもね「映え(ばえ)」ちゃうの。それが強みなのでしょうね」

 

 

――津森さんの、どこか懐かしいような独特の色彩感覚や、構図のセンスはどこで身につけられたのでしょう

 

 

津森さん「旅先やコレクションでインスピレーションを受けて身につけたものもあるし、子どもの頃のお祭りの色彩の記憶をふと思い出すこともあるし…。色の組み合わせって本当に難しくて、いつもすごく悩むんです。でも、その悩んだりゆらいでいる過程が私にとっては楽しい時間。ああ、難しい!難しいから楽しい!って、わくわくしながらやっているのね。その楽しさが伝わって、私の色彩を好きといってくださる方がいるのかもしれませんね」

 

 

 

私は「絶滅危惧種」
時代に逆行しても、楽しい洋服をつくりたい

 

 

――2019年4月「ツモリチサト」ブランドが終了するという報道に、多くの人が衝撃を受けました。でも、津森さんは今後も洋服をつくり続けていかれるのですね。

 

 

津森さん「いま洋服って、無地で、手ごろで、着回しができるファストファッションが主流でしょう?うちの服は色があふれているし、高いし、どうしてこんなところにこんな飾りが!?という装飾もついている。時代にまるきり逆行しているわよね。でもね、私はそういう洋服がつくりたいの。これからはもっと逆行してやる!絶滅危惧種になってやる!(笑)という気持ちで、自分が楽しめる服をつくって、遊ぶように仕事をしたいですね」

 

 

――遊ぶように仕事をしたい!

 

津森さん「そう。遊ぶって、尊いことだと思うのよ。私たちは人生のすべてを遊ぶべきだと思うの。勉強も仕事も家事も、どれが上等だとか優劣をつけず、すべて遊びにしてしまってね。嫌だ嫌だと思ってやることって、全然うまくならないもの。
『ツモリチサト』を解散したときも、スタッフのみんなからは“本当に楽しかったね”という言葉が口々に上がりました。いろいろと大変なこともありましたが、一言でいうと、本当に楽しかった。私はこれからも、人生を楽しみます」

 

 

――FUN ART STUDIOも、日常のアートを「楽しむ」というコンセプトを持っています。楽しみ上手な津森さんの言葉、響きました。

 

津森さん「ARTはFUN、楽しみそのものですよ。アートだけでなく、仕事も、生活も、楽しまないとつまんないわ。それは決して実現不可能なことではないの。楽しみたい、何でも楽しめる自分になりたい、と、心に思えばできるんです」

 

 

 

 


 

Profile

1976年、文化服装学院デザイン科ファッション課程卒業。1977年、株式会社イッセイミヤケインターナショナルに入社。「イッセイスポーツ」のブランド名を「I.S. Chisato Tsumori Design」に変更し、チーフデザイナーに就任する。1990年 津森千里デザインスタジオを設立し、自身のブランド「ツモリチサト」を始動。東京やパリでコレクションを披露し、デザイナーズブランドとして知られる。ブランドスタートから29周年を迎えた2019年春、「ツモリチサト」終了を発表。2019年春夏シーズンで国内ショップを終了し、新たなデザイン活動を展開する。

http://tsumorichisato.co.jp

https://www.instagram.com/tsumori_chisato_designer/


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