2024.4.30
「ピクトグラムから見るヨーロッパの街並み~日常に潜むインフォグラフィック~」
ーーはじめにーー
街中の道路や公園で目にする標識や看板。日本では当たり前に見かけるものでも、皆さんが海外へ行った際には、日本では見かけないようなデザインが街に溢れていて、それだけでも海外に来た、と実感できる方も多いのではないでしょうか。
今回は、インフォグラフィックについて、中でも「ピクトグラム」というジャンルを中心に紹介したいと思います。私たちアートサバイブログが住むプラハから、ヨーロッパらしいデザインや、日本とのセンスや文化の違いも踏まえながら、その魅力を探っていきたいと思います。
Have a fun art journey !
目次:
ーインフォグラフィックについて:
ーピクトグラムとは:
ー街中にあるピクトグラム:
ー番外編 空港のピクトグラム:
ーまとめ:
ーーインフォグラフィックについてーー
まずは、インフォグラフィックについて知っていきましょう。
「インフォグラフ」という言葉は、Apple Watchユーザーの方なら聞き馴染みのある言葉ではないでしょうか。というのも、Apple Watchの文字盤のデザインの中にはインフォグラフという項目があります。この文字盤では、アナログ時計を中心として時計の針や数字の間にアプリケーションが配置され、グラフやアイコン、テキストなどが使用されます。
インフォグラフィックとは、まさにそのように、グラフ、チャート、イラスト、写真、そしてピクトグラムなどの視覚的な要素を使って表現する、情報を視覚的かつわかりやすく伝える手法です。
テキストや数字だけだとわかりにくいような複雑な情報を、シンプルでわかりやすい形で伝えることがインフォグラフィックの目的でもあります。
また、インフォグラフィックの中にはさまざまな種類が含まれています。
会社で使用するようなプレゼンテーション資料や、地図などがその一例です。
では実際にどのようなところに使用されているのか、実例と共に見ていきましょう。
日本を出国する前の、空港での荷物預け所に掲示されていたポスターです。
複雑な条件をチャート化することで、どの荷物が持ち込み可能かどうかを容易に知ることができます。
こちらはプラハ市内で張り巡らされているメトロとトラムの路線図です。
シンプルな線と色の違いによって線路の違いが明確に把握できるのは日本と同様です。
左のメトロの路線図では、路線上に車椅子やベビーカーのピクトグラムが表記されており、どの駅がバリアフリーに対応しているかを確認することもできます。
また、この路線図の特徴的な点としては、線路と合わせて、プラハの中心部を流れるヴルタヴァ(Vltav)川が、中央部に薄い水色の線で描かれている点です。
ヴルタヴァ川は長さ434 kmのチェコで最も長い川です。日本ではドイツ名でのモルダウ川としても知られています。観光客の中心ともなるカレル橋がかかり、プラハの街並みを彩るヴルタヴァ川は、過去数千年にわたって街の発展に関わる水路でもあります。
路線図に描かれるほど、この街には欠かせない重要なシンボルだということがわかります。
電車自体に路線図が描かれているデザインの列車もあります。黒のボディに対比の効いたオレンジで路線が描かれています。文字の大きさで駅の大きさを表し、一部の駅名の隣にはその場所で有名なアクティビティのピクトグラムが表示されています。
チェコ、ポーランド、スロバキア、ウクライナを走るこの列車は、プラハ市内から出て旅をする人たちにとってありがたい存在です。
飛行機、トラム、鉄道といった、さまざまな人々が交りあう場所で多く見ることができました。
また飲食店の看板にも使用されています。
駅前にあるフードトラッカーの看板です。
イラストと金額の数字を組み合わせることで、この店のメニューを一目で理解できます。
また、左上の一番大きい部分にカットされたピザとドリンクの値段が表示されているのは、日本と異なり、1カットからピザを購入して食べ歩くことが日常的なヨーロッパならではのデザインではないでしょうか。
日本でもお馴染みのファストフード店のメニューも一例です。企業のカラーとなる黄色を主に使用し、野菜を使用したメニューでは緑色を使い、一目見て分かるようになっています。バーガーは肉の種類ごとに分けられており、牛と鶏それぞれのシルエットがトップに描かれているため、タイトルの言語が分からなくてもどの種類かが理解できるデザインです。ベジタリアン様用の大豆肉、写真の男性のタトゥーなど、日本ではなかなか見られないディテールが色々ありますね。
ーーピクトグラムとはーー
さて、前述でも出てきていますが、その中でも皆さんが街中でよく見かけることの多いであろうピクトグラムに注目していきたいと思います。
ピクトグラムといえば、東京オリンピック2020でのパフォーマンスが一躍話題となりました。あのパフォーマンスが、言語の壁を超えて、全世界の人を魅了した理由の一つとして、ピクトグラム自体が文字や言語に頼らず絵やアイコンを使って情報を表現する手法であるというところだと思います。そのためオリンピックのような、国際的な場での使用にも優れていることが特徴です。
ーー街中にあるピクトグラムーー
ではそのピクトグラムは日常のどのようなところに潜んでいるか。チェコの街並みを歩いてピクトグラムを探してきました。どのようなデザインされているかを一緒に見ていきましょう。
交通標識:
日本でも日常的に見かける横断歩道標識です。
左がチェコで撮影をした標識、右が日本で撮影した標識となっているので比べてみてください。
ポーズや服装は似ているものの、顔の輪郭や手の先、服や靴の形の細部が異なった描かれ方をしています。
また、歩いている向きがそれぞれ逆の方向に進んでいます。舞台の上手や下手、物語を進めていく方向、文化の違いから向きに対する表現が日本と西洋では真逆に使用されることは多く見受けられます。もしかすると標識の向きに関してもあえて真逆の表現が使用されているのかもしれないです。
住宅専用地域を示す標識です。この標識がある住宅ゾーンでは、歩行者が道路の全幅を使用することができ、標識の通り子供達がサッカーをすることも可能です。道路に歩行者が飛び出してくる可能性もあることを表した、ドライバーに注意を促すピクトグラムです。道路の道幅が広く、住宅街の中に自然や公園も多くあるヨーロッパだからこそ見ることができます。
また、一つの標識の中に大人、子供、車、家、ボール、縁石の、複数のモチーフを用いられています。それぞれがテンポよく配置され、線も活用することで、まとまりがあり煩わしくないデザインとなっています。
一目見たらセグウェイが使用可能な場所だと分かるピクトグラムですが、プラハ中心部および市内の一部では、2016年8月中旬以降、セグウェイの使用が禁止されているという背景があります。最近では日本でも多くなってきましたが、ヨーロッパの街中ではとても頻繁に電動キックボードを見かけます。もしかしたら近い未来、電動キックボードでのこのような標識も出てくるかもしれません。
犬:
世界一犬の飼育数が多い国になったことがあるチェコ。愛犬先進国プラハでは、犬の看板を多く目にすることができます。また、ヨーロッパでは多くの公共交通機関、お店や施設に犬を連れて乗車することが許可されており、実際に地下鉄を利用した際に、犬を一緒に連れいている飼い主を多く見かけます。
道路に設置されている犬のエチケット袋の下方部分にイラストで使用方法を説明したインフォグラフイックを確認できます。
因みにエチケット袋中央には、「愛とは、皆の行動に対しての責任でもあります」と書かれています。
建物:
教会に掲示されていたポスターの一部です。食事や通話、ローラースケートなどが禁止されています。赤丸と斜線は禁止、と言う意味は見慣れていますが、青丸は「オッケー」と言う意味が赤があることによって意味をもちます。その中で見ていただきたいのが、下段の右側です。両方とも同じ帽子ではありますが、男性用女性用で描き分けられています。
中段右側でも服装の規定が表示されていますが、男性は帽子を屋内で脱ぎ屋外で着ける、女性は正装の一部として脱がなくていい、というマナーが存在しています。
これは新約聖書に基づいたもので、そのため男性のみ教会内での帽子の着用を禁止されている場合もあります。観光地として教会を訪れる方もいらっしゃるかと思いますが、あくまでも宗教的建築物であり神聖な場所であるということを認知できるピクトグラムです。
上部の禁煙マークと併せて、下方には様々なものが禁止されているマークがありますが、一番右には拳銃のマークが。この建物は今は使用されておらず、かつて使用されていた際の名残なのでしょうか。ヨーロッパではチェコを含めほとんどの国が拳銃の所持は認められてはいないものの、日本ではまず見かけないだけに驚きのピクトグラムです。
乗り物:
ショッピングモールの中に設置されている、2階から1階に降りることができる滑り台に掲示されていました。室内に大きい滑り台があるというのが日本では見かけない光景だと思います。文字での警告でなくピクトグラムを多数利用することで、文字が読めない子供でも分かりやすいデザインです。
エスカレーターの乗り口付近に貼り付けられていたシール。
こちらも多くのピクトグラムが使用されています。プラハのエスカレーターの特徴を見ると、あえてこの注意をするのも頷けます。
というのもプラハのエスカレータは非常に長く、そして大人の私でも乗るのに慣れない程スピードが速いエスカレーターもあります。
旧ソ連時代に作られていたエスカレーターは通常より速く、徐々に減りつつはあるものの、まだ数機現存し使用されています。近年、子供が巻き込まれる事故も発生しており、深刻な問題でもあります。交通会社がエスカレーターの乗り方について6万枚のチラシを配布するなどの啓蒙活動をしたこともあるほどです。エスカレーターを使用する際には十分にお気をつけください。
斜線マーク:
ピクトグラムを街中で見ていく中で気になったのは、斜線の付け方です。
今まで紹介してきたピクトグラムの中にもいくつか斜線がついたものがありましたが、それらは全てピクトグラムの一番上に表示されています。
上の標識ではそれが顕著に出ています。
日本でもイラストの上に斜線が入った標識はありますが、イラストが見えるように配置がされていたり、もしくは斜線を下にしてイラストの全体像が見えるような形でのピクトグラムが多いように感じられました。
禁止を意味するマークとして斜線が用いられることもありますが、ヨーロッパでは交通標識において制限解除の意味で斜線がつけられることもあります。制限エリアの道路入り口に斜線がない標識、出口に制限解除の斜線がある標識が設置され、はっきりと違いを認識させるためにも、斜線を強調したデザインになっていると思われます。
ーー番外編 空港のピクトグラムーー
最後に、街中ではないのですが、皆さんも海外を旅行する際には必ず訪れる、空港でのピクトグラムを紹介させていただきます。
飛行機を降り立った後、案内板に表示されていたピクトグラムです。
真ん中の親子のピクトグラムの横には、跪いて祈るような姿勢で横を向いたピクトグラムがあります。こちらは礼拝室を意味しています。日本人の多くの方にとっては馴染みがあまりないものかと思われますが、全世界から多様な民族が集結する空港においては珍しくはなく、むしろ馴染みのあるピクトグラムとなっているでしょう。
因みにプラハのヴァーツラフ・ハヴェル空港にある礼拝室は 24 時間年中無休で、キリスト教徒、ユダヤ人、イスラム教徒、仏教徒、さらにはヒンズー教徒さえも、ここで一緒に祈ることができる場所となっています。特にイスラム諸国やロシアからの乗客が着陸する特定の時間帯に、人々が一斉に礼拝室を利用するようです。
ーーまとめーー
私たちの身近にあるインフォグラッフィックを見てきましたがいかがでしたでしょうか。
デザインの違いもさながら、使われているモチーフの種類や使用頻度によって、日本とヨーロッパの文化の違いが出ていたかと思います。また、それぞれの国で公用語だけでも20種類以上の言語が使用されるヨーロッパでは、特定の言語を使用する必要のないピクトグラムを多用したデザインも多く見られました。
新聞の記事やSNSの投稿、テレビのニュース、広告など、こと現代において私たちの周りには常に膨大な情報が溢れています。その情報すべてを理解していくのは簡単なことではないでしょう。
今回紹介したピクトグラムを中心としたインフォグラフィックは、そのような多くの情報を、文化の背景や特性を反映しつつ、情報を視覚的に伝え、私たちの生活をサポートしてくれるものとなっています。また、人種や民族が入り混じる多様性の時代の今こそ、文化の違いを理解しコミュニケーションの広がりを持つためにも、誰もが共通して分かることのできるデザインがより私たちの周りにも増えてくるのではないでしょうか。
皆さんもぜひ身の回りに意外と潜んでいるインフォグラフィックに注目をしながら、海外へ旅行した際にはその違いを発見し、背景も交えながら楽しんでみてください。
写真・文/TETS OHNARI(アートサバイブログ)
チェコ共和国首都プラハに在住する彫刻家のTETS OHNARIを代表とするメンバーで構成。アーティストハウツーや東ヨーロッパの芸術文化情報などを発信中。
https://artsurviveblog.com/